移植
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58 巻, Supplement 号
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  • 江川 裕人
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s102_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    早いもので、理事長を拝命して8年が過ぎようとしています。「臓器不全患者さんが移植を受け安心して人生を全うできる社会づくり」をめざし、移植へのアクセス整備、臓器提供環境整備、医療技術革新、人材育成、社会インフラ整備に会員とともに尽力してきました。救急関連学会との交流も深まり、若い救急医や集中医療医から移植医療について情報提供を求められるようになりました。二期目の理事会となった3ヶ月目にCOVID-19に見舞われましたが、アカデミアとして危機管理対応の良い経験になったと今では思うことができます。2020年7月の理事長挨拶に「おそらく社会が落ち着くと臓器提供は急増すると予測しています。」とあります。事実、あらゆる移植医療現場で急増する臓器提供への対応が急務です。さて、2021年6月のバチカン・WHO合同ワークショップで生体ドナーの長期管理について講演を依頼された際の情報収集で、日本の生体腎ドナーの課題に気がつきました。現在、渡航移植事件がきっかけで法整備の必要性が議論されています。既得権にこだわることなく未来を見据えて、アカデミアのオートノミーが脅かされないよう患者さんのために自らを律することが求められています。日常診療と学術活動で寝る間もないのが実情と察しますが、移植でしか助からない臓器不全患者のため、臓器提供の意思にこたえるため、臓器の枠を超えてもうひと肌脱いでいただきたい。

  • 栗本 康夫
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s103_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    眼科領域で治療対象となる視覚系は、角膜や水晶体などの光学系と網膜および視神経からなる神経系に大別出来る。このうち、角膜については提供眼による角膜移植、水晶体については人工臓器である眼内レンズによる移植治療が標準治療として確立しており、一般に視機能を再建することが可能である。一方、中枢神経系に属する網膜と視神経については、ひとたび細胞が変性してしまうと機能を再建することは不可能とされてきた。しかし、近年の幹細胞研究の進歩に伴いこの常識は覆され、幹細胞治療による網膜の再生医療が実現しつつある。我々は、加齢黄斑変性の患者に対してヒト初の人工多能性幹(iPS)細胞治療となった自家iPS細胞由来網膜色素上皮(RPE)移植を行い、iPS細胞治療の安全性と一定の有効性を確認した。次いで、iPS細胞治療の一般化を目指して、より幅広く臨床実施が可能と思われる他家iPS細胞ストック由来RPE細胞をHLA主要6座マッチした加齢黄斑変性患者に移植し、他家iPS細胞ストックの実臨床での有用性を示した。さらに、遺伝性網膜変性疾患を対象に他家iPS細胞ストック由来神経網膜オルガノイド移植を行って一定の有効性を確認し、現在はRPE不全症に対する他家iPS細胞ストック由来RPE細胞紐移植の臨床研究を進行中である。本講演では、iPS細胞を用いた網膜再生医療の現状と課題、そして今後の展望について概説したい。

  • 妻木 範行
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s103_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    関節軟骨は修復能に乏しいため、その損傷・変性に対して細胞/組織移植による再生治療方法の開発が望まれている。軟骨は、軟骨細胞外マトリックス中に軟骨細胞が散在する構造をとる。関節軟骨損傷に対して自己軟骨細胞移植術や海外では同種関節軟骨の移植術が行われているが、移植物が不足し、その品質に課題がある。そこで我々は関節軟骨欠損に移植する軟骨を供することを目的に、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から軟骨を作製する方法を開発した。ヒトiPS細胞から軟骨細胞を分化誘導する培養条件を探索し、さらに3次元培養を組みわせることによって誘導軟骨細胞に細胞外マトリックスを作らせて軟骨を作ることが可能となった。細胞外マトリックスを伴った軟骨を作ることにより、その中に含む軟骨細胞を安定に維持できる。動物モデルの関節軟骨欠損部にiPS細胞由来軟骨を移植すると生着し、関節軟骨として機能した。また、霊長類モデルを用いた同種移植実験により、iPS細胞由来軟骨は生体軟骨と同様に免疫原性が低いことが判明した。よって、品質管理された1種類の同種iPS細胞から均一な軟骨組織を大量に作製して多数の症例に再生治療を行うことが可能となる。同種ヒトiPS細胞由来軟骨を用いた関節軟骨欠損の再生治療の実現に向けて研究開発を行っている、我々の取り組みを紹介したい。

  • 武部 貴則
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s104_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    多能性幹細胞より立体的な器官の誘導を試みる研究の多くは、器官発生過程で生じる多細胞間の時空間相互作用を人為的に再現するアプローチが取られてきた。すなわち、胚性幹細胞(ES)細胞や人工誘導性多能性幹(iPS)細胞などの培養系において、胎児期における器官形成で生じるキーイベントを再構成することによって、「自己組織化(Self-organization)」を刺激することを通じて中枢神経系や消化管を始めとしてさまざまなオルガノイド創出が報告されてきた。われわれのグループでも、肝臓創出を目指す多能性幹細胞研究において、血管、神経、間質細胞、免疫細胞といった恒常性に必須の役割を担う多細胞系からなる複雑なオルガノイド創出法を報告している。さらに、肝胆膵領域を一括して再生するという多臓器再生という概念を生み出すことなどを通じて、器官機能再建を目指す技術開発を展開してきた。本講演では、オルガノイドを用いた臓器機能置換など臨床医学への実質的還元を目指す新潮流、オルガノイド医学(Organoid Medicine)研究の最前線について議論したい。

  • 中内 啓光
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s104_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    昨年はじめに報告されたブタ心臓の心不全患者への移植は世界的に大きなインパクトを与えた。ゲノム編集技術の進歩により、大型動物でも遺伝子組み換えが容易に行えるようになり、抗原性の高い異種分子を除いたり、免疫系による攻撃を防ぐ分子を導入することにより、これまでより遥かに拒絶反応を受けにくいブタを開発し、その臓器を移植したのである。こういった遺伝子改変したブタの臓器を移植に使う試みは異種移植と呼ばれる。一方、我々は発育途上の動物胚の発生環境を利用してヒトiPS細胞由来の臓器を作製するアプローチを考案した。これまでに特定の臓器が欠損した動物胚(ホスト)に異種由来の細胞(ドナー)を移植し、欠損臓器をドナー細胞にて補完する胚盤胞補完法、IGF1受容体欠損ホスト動物胚を利用した細胞競合法、臓器欠損胎仔を経子宮的に補完する胎仔補完法を開発し、iPS細胞を用いた免疫拒絶の無い臓器移植の実現を目指している。

  • 伊藤 泰平, 剣持 敬, 栗原 啓, 會田 直弘
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s106_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    藤田医科大学は、肺・肝・膵/膵島・腎移植施設であるとともに、2023年4月までに、心停止249件、脳死18件の提供事例を有する、国内でも有数の臓器提供病院である。脳死臓器提供の際には、2回目の法的脳死判定終了後は当科が主科となり、臓器提供が円滑に行えるよう努めている。当科では、過去の院内発生の脳死臓器提供事例において、病院許可のもと、ドナー家族には教育目的での撮影であることを承諾していただき、心・肺・肝・膵・腎採取ビデオをそれぞれ撮影、ライブラリーとして保存してある。今後、本ライブラリーを広く、できればオンラインで他施設の移植医にも共有できるよう、日本移植学会と交渉している。オンラインでの公開に当たっては、日本外科学会、日本内視鏡外科学会などの規則を参考に、当院の顧問弁護士とも相談の上、「日本移植学会における静止画、動画の取り扱いに関する規定」「静止画および動画撮影データの使用に関する細則」「静止画および動画撮影データの譲渡に関する細則」「静止画および動画撮影とその利用に関する同意書」「静止画および動画撮影の使用に関する承諾書」などの規則草案を作成、日本移植学会に提出している。このような教育的資料の有効活用の方法について論じ、広くご意見をいただきたい。

  • 小野 稔
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s106_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    わが国では脳死臓器提供が限られているために、成人心臓移植待機期間は5年を超える長期となっている。そのため、植込み型補助人工心臓(iVAD)によるサポートが95%以上で必要となるという国際的には特異な状況にある。本セッションでは、東京大学における200例を超える心臓移植の経験を通して、スムーズに移植を進めるためにはどのような留意点が必要なのかの要点をお伝えしたいと思う。第1は、iVAD装着手術において来るべき心臓移植をいかに容易にするかを念頭においた手術をしておくことである。第2は、広範囲な剥離操作をいかに無駄なく行うかである。第3は、剥離を短時間で完了するためにiVAD本体やドライブラインをうまく利用して大きな心臓を手前に引き出してくることである。第4は、レシピエント心臓切離線を正確に読み解いて吻合を行いやすいように切離を行うことである。第5は、最初の左房後壁吻合においてきれいな内膜接合面を作ることである。第6に、レシピエントとドナーの異なるサイズの吻合をピッチとバイトの調整で辻褄をうまく合わせることである。この6つの要点を迷うことなく流れるように行えば、出血の少ない迅速な心臓移植手術が誰にでも可能である。

  • 江川 裕人
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s107_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    同所性臓器移植の本質は、臓器不全により通常の腫瘍切除や機能回復手術に耐えられない患者の疾患臓器を摘出し新たな臓器の脈管再建を行うことである。肝臓移植において、開腹から閉腹まで全ての手技が伝授すべき手技である。生体ドナー手術においては、開腹手術の中では高度に緻密な手技が要求される。生体肝移植でドナーは当然のこととしてレシピエントにも合併症が起きないための手技が正しく伝承されるべきである。 その原則は、レシピエントでは、出血量が少なく再建脈管を損傷しない剥離操作と軸と角度に無理がなく狭窄のない脈管吻合である。生体ドナーでは正確なボリューメトリ-と脈管解剖の理解に基づいた切離設計と胆管周囲組織の温存である。 現在、臓器移植以外の分野で血管吻合時に広く行われているtransluminal anastomosisはStarzl先生が考案した手技である。生体肝移植ならではの手技は、複数開口の血管・胆管再建であり、そのほとんどすべてが1990年代に、幕内・田中両先生により考案されたものである。天才の技を凡人である我々が理解し後世に伝えるために手術力学が重要である。この根本原理が理解できれば自力で応用問題が解けるようになる。伝えるべきは、公式ではなく原理である。

  • 伊達 洋至
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s107_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    小児は、体格が小さいため、当然血管や気管支も細く、繊細な吻合が必要である。脳死肺移植の場合は、ドナーとレシピエントの解剖はマッチしてるため、吻合は細いがそれほど難易度は高くない。一方で、生体肺移植の場合は、大人の肺の一部を移植するために、グラフトと、胸腔は形も大きさも異なる。さらに、吻合する血管や気管支の位置や形も異なる。加えて難しいのは、ドナー肺が膨らんだときの形を予測して吻合部に屈曲や狭窄をきたさないようにする必要がある。演者は、これまでに、片肺葉移植、区域移植、同時胸郭形成などを実施してきた。これらの新しい術式のビデオを供覧する。

  • 津々浦 康
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s108_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    移植患者が安心して手術に臨み術後も長く健康を維持できるようにするために、拒絶反応や感染症の予防・早期発見、内服管理、栄養管理、社会保障制度の利用など様々な面から支援が必要である。 当院では、2022年の新規紹介症例は80例であり、50例の肝移植手術が行われた。初診時から移植後遠隔期にかけて関わる移植コーディネーター(RTC)や、入院期間中に最も密に関わる看護師の役割はとても重要である。その他、薬剤師、理学療法士、管理栄養士、社会福祉士も積極的に介入しているが、支援をより早期かつ的確に開始するためにもスタッフ間の連携を強めていきたいと考えてきた。 今年度より病棟では、移植コーディネーター養成研修を受講し肝移植患者ケアの中心となる看護師の育成に取り組んでいる。多職種での合同カンファレンスについては、これまでは病棟看護師の要請による不定期開催であったが、多職種のスタッフが確実に参加できるように日程調整を行い定期開催とした。実施要項についても検討を行い、入院中の患者の問題点についての検討だけでなく、入院予定患者の情報共有も行えるようになった。 これらの取り組みにより多職種間の連携が強化され、患者の入院前から必要な援助が明らかなり、個別性のあるケアを提供することが可能になったと考えられる。患者に関わる医療者にとっては指導・ケアに取り組みやすくなり、仕事へのモチベーション向上の一助になったとも考えられる。

  • 蔵満 薫, 小松 昇平, 原 麻由美, 宗 慎一, 佐伯 綾子, 山本 洋子, 菊本 さやか, 福島 健司, 浦出 剛史, 吉田 俊彦, 荒 ...
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s108_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    背景;平成23年度より移植学会を中心としてレシピエント移植コーディネーターの認定が開始され、平成24年4月より移植後患者指導管理料が診療報酬として新設された。また脳死肝移植実施施設に関する基準の中でもレシピエント移植コーディネーターの配置が実施体制として求められている。当施設の現状;現在我々の施設には6名のRTCが存在する。専従が3名で他3名は外来、病棟に所属している。副師長1名は肝臓と腎臓の両方を、残りの3名は肝臓、2名は腎臓を担当し、週2回の肝移植外来で約100名の肝移植患者と週2回の腎移植外来で約400名の腎移植患者の診療補助を行っている。RTC育成の現状;病棟では専門看護師やラダーIV取得を目指す看護師へのリクルート活動を行っている。具体的には病棟師長協力のもと、移植外来での診療補助を経験してもらうことで、移植を受け退院した患者がどのように社会復帰しているかを見てもらう。興味がある看護師には学会参加やJATCOでの講習受講を金銭面でサポートしている。RTC育成の課題;肝移植適応基準やEVAS更新手続き、コロナ禍においては発熱患者への対応など、RTCの業務は多岐にわたる。継続的にRTCを育成するためまずは既存のRTC業務の棚卸しを行い、特定のRTCに紐づく作業やクラークとの分業を行うことが最も重要である。また若手のRTCが継続的に業務を遂行できるよう、移植医はRTCの体制改善に繋がる要望をすべきである。

  • 野尻 佳代
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s109_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    移植医療においてチームの要であるレシピエント移植コーディネーター(RTC)の役割は重要である。諸先輩方の活躍のお陰で認定制度への期待が高まり、2011年に移植学会を中心とする9(現在は10)学会および研究会からなる認定合同委員会によるレシピエント移植コーディネーターの認定資格制度が開始された。認定にあたり、日本看護協会もしくは日本移植コーディネーター協議会(JATCO)が主催する3日間の研修への参加を必須とし、さらに認定合同委員会規則に定める症例数の経験や学会および研究会への参加とセミナーの参加が求められている。毎年約20名の新規認定レシピエント移植コーディネーターが誕生しており、2023年1月現在の資格保有者は211名である。一方、更新資格認定については、RTC自身の退職や勤務する職場が移植実施施設でなくなったこと等の事情で新規移植症例が経験できず、更新ができないRTCもいた。移植を待機する患者の長期化や看護学的管理において、RTCは多岐にわたる業務や専門的なスキルが必要とされるが、現在、各施設に所属するRTCはOJT(On the job training)で学んでいる。複数のRTCを設置するハイボリュームセンターでは症例から学ぶ機会があるものの、臓器を兼任で担当したり、経験豊富なRTCがいない場合もあり、これらについてRTCの質の向上が課題である。今回、RTC認定制度の現状とJATCOでの教育活動と今後のRTCについての展望を述べたい。

  • 井上 千晴, 大宮 かおり, 芦刈 淳太郎, 蔵満 薫, 北村 聖, 門田 守人
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s109_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    ドナー家族への説明と承諾の手続きおよび臓器配分などの臓器あっせん業を担う移植コーディネーター(以下、「Co」とする)には、日本臓器移植ネットワーク(以下、「JOT」とする)所属Coと都道府県Coがおり、全国で84名が活動している(2023年5月1日現在)。

    あっせん業務は、JOTで研修および試験を受け基準を満たした者に対してのみ委嘱される業務であり、その後はラダー制度に基づき級別段階別研修(事例を用いて家族対応を学ぶグループワーク)、e-ラーニング、OJTが実施されている。また、経験の少ない都道府県Coに対しては、ロールプレイや他県で経験を積めるよう事例に応じた調整を行っている。

    ラダー制度の導入により個別習熟度に応じた教育体系が展開できるようになったが、Coの基礎教育機関がないことから、あっせん業が委嘱されて以降の教育はOJTが中心となり業務習得に時間を要する。さらに臓器提供発生施設は偏在化傾向にあることから、特に都道府県Coは業務経験を積みにくい。症例の過多によらず今いるCoのモチベーションをいかに維持し一定の基準で評価するか、新人Coをいかに早期戦力化し次世代の指導者として確立するかが今後の課題である。

    今年は臓器提供数が過去最多となることが見込まれている。先細りの医療業界の中で唯一と言っても過言ではない隆盛の移植医療の担い手を、一人でも多く育成していきたい。

  • 高橋 美香
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s110_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    <BR>あっせん対応における都道府県コーディネーター(以下、都道府県Co)は、日本臓器移植ネットワークコーディネーターの指示の下、家族や提供病院関係者の対応、搬送手段の手配を担うなど現地チームの一員として役割を発揮しなければならない。ゆえに、都道府県Coによる各提供病院の臓器提供に係る体制の把握や院内コーディネーター育成などの体制整備支援、ならびに臓器搬送における協力機関と連携するための活動は重要である。<BR>北海道はR4年度より都道府県Coを2名に増員し、臓器提供につながる可能性のある症例の初動対応に加えて、Coのワークライフバランスの充実も必要と考えている。そのためにはCo個々の自立は必要不可欠であり、様々な背景を有する症例への柔軟な対応が求められる。あっせん対応技能は多くの経験に裏打ちされることによって習得可能な技能であり、OJT(On-The-Job Training)による現場教育に加えて、他者の経験を情報共有するなどのOff-JT(Off-The-Job Training)による知識の積み重ねも有用と考える。<BR>さらに同時期に発生する複数症例の尊い臓器提供意思や提供病院のご尽力に応えるためには、都道府県Coの隣県支援も欠かせない。隣県支援は都道府県Coにとっても当該地域では得る事の出来ない学びの機会であり、経験の蓄積となる。しかし支援要請に対応可能なCoも限られることは十分に予測されるため、隣県支援体制も可及的速やかに整備すべきと考える。

  • 江崎 綾奈, 井山 なおみ, 明石 優美, 小玉 正太
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s110_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    膵島移植は重症低血糖発作を伴うインスリン依存性糖尿病に対する治療であり、本邦では先進医療の下に2012年より31例の膵島分離と26例の膵島移植が行われている。膵島移植は組織移植の中では唯一全国対応を行っており、膵島移植施設は9施設、膵島提供の対応可能な組織移植コーディネーター(以下、膵島Co.)は12名であるが、そのほとんどは実践経験がなく研修中である。筆者は事務職として入局したが、前任の膵島Co.の退職を機に、入局した年に膵島Co.を引き継ぐことになった。当時、当バンクでは福岡県内の症例経験のみであったが、引き継いだ翌月には沖縄・関西と他府県の症例対応を経験することとなった。他施設の膵島Co.に同行し症例経験を積む中で、2018年に日本組織移植学会のコーディネーター認定を取得、ドナー家族の葛藤、移植医療の背景、膵島Co.の役割や苦悩を知った。また組織Co.は国家資格ではないため各組織移植施設での雇用形態は様々で確立していない。しかしながら、膵島Co.として継続して活動ができるのは、他施設の膵島Co.や他組織Co.との連携や指導、研修を継続的に受けることができ、当バンク・病院の全面的なサポートがあったからである。研修ではロールプレイや症例検討、記録の作成など多くを学んだ。今回は教育を受けた立場から、当時の研修内容と自己評価より、現在の取り組みを報告し、今後の後進の育成について検討する。

  • 瓜生原 葉子
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s111_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

     本研究班では、臓器提供数の増加を目指し、その障壁となっている行動課題をシステム思考の視座で特定し、その解決のための「行動変容」促進因子と方策を明らかにすることを目的としている。具体的には、1)地域の啓発に必要な資源の網羅的調査と必要資源の明確化、2) 地域啓発プロセスの開発とマニュアル作成、3) 地域啓発の共創環境整備、4) 移植、および提供に携わる医療者への啓発課題の抽出と方策の明確化を目標としている。そのうち、特に2)に着目して報告する。

     まず、既導出の臓器提供意思表示行動に関する「行動変容促進メカニズムモデル」を適用し、各地域の意思表示行動の促進因子を明らかにする定量調査を実施した。14,562名の回答の分析結果から、関心有り率、意思表示率といった評価指標ではなく、行動変容ステージを指標とする方が適切であることが示唆された。また、各地域のメカニズム図を描き、焦点をあてるべき層を明確にし、その促進因子を明確にすることの重要性も示された。次に、2015年から2018年まで京都で実施した啓発活動について、ソーシャルマーケティングのプロセスに則って整理した。また、行動変容の実効性を高めるための8つの必須要素を明示した。これらに基づき、『科学的根拠に基づく啓発活動マニュアル』のドラフトを作成した。今後、本マニュアルを検証・精緻化することで、各地域の啓発施策の立案に貢献したい。

  • 吉川 美喜子
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s111_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    COVID-19蔓延下で臓器提供・移植数の著明な減少がみられたが、令和4年度において脳死下臓器提供数は過去最高数となった。しかし、我が国初の脳死下臓器提供が行われた平成10年以降、脳死下・心停止後臓器提供数はおよそ計100件前後にとどまり、眼球を含む国内の臓器移植希望登録者数は17,835名にのぼる。このような状況を鑑み、国内の医療提供体制をより一層推進するための取組として、臓器提供施設連携体制構築時業等の拡充と、当該事業における脳死患者の情報を早期に拠点病院等と共有する仕組みを検討している。この取組により、救急・集中治療の終末期医療の一環として家族に臓器提供の情報を確実に提供する体制の構築が期待される。また、施設内、地域内で、脳死患者の把握、終末期医療から、臓器摘出・搬送までを円滑に行う取組が望まれており、この体制の構築には移植施設の協力が重要である。これら行政の取組を概説し、今後の移植医療の展望について言及する。

  • 西山 慶
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s112_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    "【目的】希望者への脳死判定は終末期ケアの一環であるが、救急医療における終末期ケア体制整備と脳死下臓器移植との関連について評価した。【方法】日本救急医学会脳死・臓器組織移植に関する委員会が実施した救命救急センターを対象に行われた調査(回収率76%)と救命救急センター充実段階評価および日本臓器移植ネットワークの都道府県別脳死下臓器提供患者数データを結合し評価した。【成績】解析では救命救急センターにおける脳死下臓器移植の有無と、救命救急センター充実段階評価における「救急での人生の最終段階における医療の整備(人生の最終段階における医療において明文化された基準・手順が整備され、多職種による患者・家族等の移行を尊重した対応を行っていること)」が有意に関連していた(71.1% vs 53.8%, p=0.04)。さらに人口当たり脳死下臓器提供患者数が少ない都道府県では有意に「救急での人生の最終段階における医療の整備」を行っている割合が少なかった(Q1 vs Q4; 85.4% vs 66.7%, p=0.03)。【結論】救命救急センターにおける終末期ケア体制整備は脳死判定経験と有意な相関があったが、それには地域差があり、脳死下臓器提供の少ない都道府県は体制整備が遅れていた。救急患者全体への終末期ケア体制を整備することにより、その一環としての脳死判定・臓器移植が推進されることが示唆された。

  • 中尾 篤典
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s112_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    当院は臓器提供を希望されながら医学的理由で断念した2例を除き、6月中旬の時点で26例の脳死下臓器提供を行ってきた。1996年以降、岡山県の人口100万人あたりの提供数は20.3人であり、本邦で最も多い。当県で提供が多いのは、チームでの医療を実践し、全力で看取る文化が根付いているからであり、欧米の真似事ではない日本流のドナーアクションを行っているからである。全力の治療を行ったうえで、主治医グループを中心とし、患者の推定意思を汲み取るための多職種による家族ケアを行っている。さらに、県内でのドナー候補者が出た場合には、必要があれば当院から医師や検査技師を派遣し、助言を行っている。最近になり、小児における虐待などより現実に即した解釈がなされるようになったが、病態的には脳死であるにも関わらず、判定が出来ないときの補助検査の可能性(眼球摘出後、頚髄損傷など)、家族関係がより複雑な社会における血縁者のみによる代理意思の決定、外国人ドナー候補者の対応、など今後検討の余地がある。必要であれば警察、法医学教室との合同カンファレンスを行い、司法解剖の適応などにつき意見交換を行い相互理解に努めている。さらに、脊髄自動反射と考えられる動きが顕著である場合に補助検査として行う脳血管造影や、無呼吸テストを安全に行うための人工呼吸器を装着したまま呼気終末陽圧の付与といった当科の工夫についても言及したい。

  • 小谷 恭弘, 廣田 真規, 黒子 洋介, 小野 稔, 笠原 真悟
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s113_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    日本における心臓移植待機者数は約900人と増加の一途を辿っており、移植待機期間は平均4年以上と諸外国に比べ長く、臓器提供増加が喫緊の課題である。諸外国ではドナープール増加のため心停止ドナー(DCD)からの心臓移植を行っている。今回、海外における心停止ドナー心臓移植の現状を調査し、今後国内において実施するための課題を検討した。脳死と異なり心停止の定義は難しく各国で様々な解釈がされている。米国では統一死亡判定法で”不可逆的な呼吸循環機能停止あるいは不可逆的な脳機能停止”として定められているが、1981年制定のものであり現代の解釈に応じて改訂予定となっている。一方、わが国においては死を定義した法律はない。もう一つの問題は、生命維持治療の停止(WLST)に関するものである。わが国ではこれを禁止とした法律はないが、倫理的な問題から臓器提供を目的としたWLSTには慎重な検討が必要である。心臓の摘出方法については体外での再灌流と、体内での再灌流があり、国や施設によってもその選択は異なる。いずれの方法も一長一短があり、心機能維持の目的のみならず倫理面からのアプローチも必要である。諸外国で行われているDCD心臓移植は5年生存率でも脳死心臓移植と遜色ないとの報告がされており、またドナープールを3%から最大200%まで増加している国もあり、今後わが国においても前述の問題点を克服するための議論や指針の策定が必要となると考えられた。

  • 荒巻 和代, 古川 みゆき, 青柳 武史, 谷口 雅彦
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s114_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    背景:生体ドナーの心理・社会的問題への支援体制は極めて重要である。当院ではShared Decision Making (SDM)を用いたドナー支援を行っている。目的:当院で生体腎移植を希望されたドナー候補者に対する支援の妥当性検討する。対象と方法:2015年11月から2023年4月までに生体腎移植を希望したドナー候補者71件を後方視的に検討した。結果: 移植前の意思決定支援にSDMを用いた全71件の内、移植に至ったのは56件(79%)、至らなかったのは15件(21%)であった。至らなかった理由としてドナーの身体的理由が12件(80%)、ドナー候補者・家族の意思表示が3件(20%)であった。この3件は、SDMにて個々のニーズに沿った話し合いができ、自ら辞退の意思決定が行えた。移植後follow upでは、半年までは100%であった。1年後からの検診は、呼びかけを行ったが28件(57%)しかできておらず、その理由は経済的理由や多忙であった。follow upできたドナー2名に早期胃癌、前立腺癌が見つかった。結論:SDMを用いた事で、医療者とドナー候補者の間に信頼関係が構築され至適な選択がなされた。しかし移植後の継続したサポート体制は未だ課題である。

  • 岡部 祥, 山科 咲智
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s114_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    本邦では腎臓移植を希望する場合、脳死下及び心停止下の臓器提供が少ないため生体ドナーに依存している。2022年当院では114組の生体腎移植が行われた。レシピエントの年齢は平均48.4歳(5 -75歳)、ドナーは平均58.8歳(30-80歳)であり、その内訳は親48名 配偶者 52名 兄弟姉妹 8名 子供4名 その他2名であった。ドナー候補1名がそのままドナーになったのは98組 ドナー複数名から決定したのは16組(14%)であった。腎代替療法指導管理料の算定により医療者から移植の選択肢提示される機会が増えたこと、誰でもインターネットから情報が得られるようになったことで移植の身近に感じられるようになった。レシピエントの移植への期待感の陰で密かに抱くドナーの不安と本音をいかに引き出しどうサポートすべきかについて事例を交えて紹介したい。

  • 平野 一, 橋本 綾菜, 東 治人
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s115_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    生体移植における意思決定には,対象となるドナー候補者に葛藤や周囲からの重圧が生じている可能性があると指摘されており,適切な支援が必要である。ドナーは,生体移植がレシピエントにとっては最善の治療であると理解している反面,様々な不安や葛藤がある。健康体であるドナーにとって,入院に対する不安,手術に対する不安,退院後の生活に対する不安があるのは当然である。当科では腎提供前・移植手術のための入院期間中・腎提供後の外来通院において一貫して、医師・コーディネーターが関わっている。腎代替療法選択外来においては,ドナーの意思表示前の段階から術後まで長期的に積極的に関わることで信頼関係の構築ができるようにしている.受診回数を重ね,診察後に面談の時間を設けるなど,患者家族とより密に関わることにより,本人だけでなく家族にとっても最良の腎代替療法選択ができるよう働きかけている。腎提供に伴うリスク(身体面・社会面含め)をあらかじめ説明するのはもちろんのこと,ドナーが臓器を「提供する」「提供しない」のいずれに決めた場合でも,誰からも強制されない自由な意思決定が表明できるよう支援している。ドナー意思表示後は,移植後の自己管理の大切さ,定期受診の必要性を説明している。レシピエントが健康でいることがドナーの精神面への健康につながり,またドナーが健康でいることがレシピエントの精神面への健康につながると考えている。

  • 大角 明宏, 高橋 守, 田中 里奈, 豊 洋次郎, 濱路 政嗣, 中島 大輔, 伊達 洋至
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s115_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    当科は2008年に現行の生体肺移植プログラムを開始し,累計214名の生体ドナーから提供頂き,118例の生体肺移植を施行した.脳死肺移植登録の有無に関わらず,選定まで待機困難と思われる症例を対象としており,ドナー候補者の自発的な申し出の元に検討を行っている.血液型一致または適合する20-60歳の3親等以内の血族を条件としている。そのため,ドナー候補者は限られ,提供に対するプレッシャーがかかりやすいため,個別に十分な説明を行なっている.術前検査は外来で行い,必要に応じて検査の追加や他科への受診により,肺を含め他臓器にも提供に際して問題ないことを厳正に評価する.ドナー肺摘出術は,前鋸筋を温存した後側方切開で行い,右または左下葉をご提供頂くが、術側はグラフトのサイズや肺動静脈分枝の走行によって決定する。温存肺葉の血管はできるだけ温存するよう血管形成を行うこともある.小児症例に対する生体肺移植も積極的に行なっており、グラフトが大きい場合は区域で提供頂くこともある。これまで術中合併症として、2例の切離気管支の誤認に対して気管支形成を行なった.術後に再開胸を要した症例は4例認め,内訳は後出血に対する血腫除去,膿胸に対する郭清術,遅発性肺瘻に対する修復術,遺残物除去であった.呼吸機能は一旦低下するものの徐々に回復し,術後1年の努力性肺活量・1秒量は術前値の約90%であった.手術関連死亡はなく,全例軽快退院されている.

  • 上野 豪久, 田中 美和, 森本 貴子, 高瀬 洪生, 小林 省吾, 梅下 浩司, 江口 英利, 木村 武司, 奥山 宏臣
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s116_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    はじめに:生体肝移植のドナー手術は比較的侵襲の大きな手術であり長期的な経過観察が望ましい。当院ではドナー外来を年に一度の外来を基本としている。しかし患者自身は外来に定期的に通院するものの、ドナーの受診については明らかではない。そこで、ドナー外来の受診状況と、その支援について検討をした。方法:2021年までに当院で生体肝移植を実施した18歳以下のレシピエントのドナーを対象とした。ドナーの年齢 性別 関係 外来受診の頻度を調査した。また、レシピエントの家族にドナー外来受診の支援に関するアンケート調査を実施した。結果:132例が対象となった。そのうち64人(48%)が定期的にドナー外来を受診していた。移植後10年以上のドナーの外来受診率は38%であった。母の受診率が60%に比較すると父の受診率は40%と低かった。死亡したレシピエントのドナーの受診率は12%と著しく低かった。考察:ドナーの外来受診は移植からの時間が経つほど低下し、また、父がドナーの場合が低いことが分かった。また、レシピエントが死亡した場合はドナーの受診が著しく低下した。アンケート結果をもとにドナーの経過観察支援を検討したい。まとめ:小児生体肝移植後のドナー外来受診の向上のためには受診のための支援が必要である。

  • 木村 宏之, 杉田 尚子, 大橋 綾子, 成田 尚, 藤澤 大介, 岡田 剛史, 松本 洋輔, 岸 辰一, 川崎 弘詔, 西村 勝治, 小倉 ...
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s116_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    "【目的】

    世界の中でアジア地区は生体肝移植ドナーの併存精神疾患が多いとされる。今回、生体肝移植ドナーの併存精神疾患の多施設調査について報告する。

    【方法】

    肝臓移植8施設において、生体移植ドナーの併存精神疾患を後方視的に抽出し、1)ドナー評価時に精神疾患併存の生体肝移植ドナーが移植したレシピエントの予後、2)ドナー評価時/移植後に精神疾患併存の生体肝移植ドナーとその移植レシピエントの特性、を検討した。

    【結果】

    精神疾患併存は、546例のうち46例(ドナー評価時の併存16例を含む8.4%)だった。1)ドナー評価時に精神疾患が併存したドナー16例から移植されたレシピエントの生存率は、併存しないドナーと比して有意差はなかった(Log-rank test: p=0.738, HR: 0.788[95%CI: 0.194-3.198], 最終生存率(%): 62.5 vs 73.8)。2)ドナーに精神疾患(ドナー評価時の併存精神疾患を含)が併存した場合、移植レシピエントにも精神疾患が併存しやすかった(χ2=11.28,自由度=1,p<.001)。

    【結論】

    今回の結果では、生体肝移植ドナーに精神疾患が併存すると肝移植レシピエントにも精神疾患が併存しやすく、精神科的問題が重なる可能性がある。生体肝移植ドナーの精神科サポートは肝移植レシピエントと比べて整備されておらず、円滑な連携の標準化が求められる。当日は具体的な併存精神疾患や連携医療を明示する。

  • 大西 康晴, 佐久間 康成, 眞田 幸弘, 脇屋 太一, 岡田 憲樹, 平田 雄大, 堀内 俊男, 大豆生田 尚彦, 高寺 樹一朗, 吉田 ...
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s117_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    【はじめに】生体肝移植(LDLT)ドナーの安全性のためには身体的・精神的負担軽減が最優先されるべきである。当院で経験したLDLTドナー術後合併症に関する検討を行なったので報告する。【対象と方法】LDLTドナー378例を対象とし検討。2016年よりドナー管理をレシピエントチームが行うことになり、同時に術後1年までの管理から永続的管理に変更した。【結果】男性180例 、女性198例 、年齢33歳。身長165cm、体重59.6kg、BMI21.8kg/m2。レシピエントは小児329例、成人49例で、レシピエントとの関係は、母169例、父156例、その他53例であった。グラフトタイプは外側区域215例、減量外側区域16例、左葉75例、尾状葉付き左葉18例、単区域16例、右葉36例、後区域2例であった。手術時間5時間31分、出血量570ml、術後在院日数11日であった。術後合併症は胆汁漏49例(13%)、創感染26例(7%)にみられた。消化管通過障害31例(9%)のうち5例が退院後再入院を要した。その他の合併症も治療介入で全て改善。ドナー術後メンタルケアとして、レシピエント術後死亡ドナー(当院で22例)は特に重要であるが、外来通院継続は7例(32%)であり、2016年以降はレシピエント死亡ドナー5例中4例(80%)が通院継続中。【結語】生体ドナーの身体的負担軽減には術後合併症を最小限にし、精神的負担軽減には生涯にわたる外来通院によるサポートが重要である。

  • 中里 弥生, 上遠野 雅美, 大野 珠愛, 福田 晃也, 阪本 靖介, 笠原 群生
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s117_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    【目的】急速に発症・進行する予後不良な乳児急性肝不全において、家族は病態・肝移植の必要性、ドナー選択など短期間での理解と判断を求められる。母親がドナーになる場合には産褥期・授乳期の身体的問題があり更なるサポートを要することから、当センターの取り組みの現状と課題について検討した。【対象・方法】2023年4月までに乳児期に生体肝移植を施行した342例中、母親がドナーとなった乳児急性肝不全例は32例であった。家族構成・産褥・授乳の問題、遺伝子相談・術後の出産の有無などについて検討した。【結果】平均観察期間は8.2年(再移植7例;23%、死亡5例;17%)。50%で患児同胞がおり、患児が第一子は46%、産褥・授乳の対応を助産師の依頼を48%、遺伝子相談・次子出産が31%であった。術後の月経開始・不順、母乳ケア、婦人科受診等の相談対応が必要であった。更にレシピエント退院後は母親ひとりでの育児が主体であり、育児に関する身近な相談窓口も少なく、電話連絡での体調・育児相談への対応が求められた。死亡例のドナー外来受診率は低く、グリーフケアが実施できていないのが現状である。【課題】乳児急性肝不全に対して母親をドナーとして生体肝移植を行う場合、 1)術前の病態・移植医療に対する不安の軽減、2)産褥・授乳に対する介入、3)神経学的後遺症をもった家族への育児支援、4)死亡例のドナーに対するグリーフケアなどが課題である。

  • 政野 裕紀, 伊藤 孝司, 影山 詔一, 青木 光, 平田 真章, 奥村 晋也, 笠井 洋祐, 門野 賢太郎, 小山 幸法, 穴澤 貴行, ...
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s118_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    2009年の臓器移植法改正以降、当院における脳死肝移植数は増加しているが生体肝移植の割合は80-85%と大多数であり、生体肝移植ドナーの身体的負担軽減は非常に重要な課題である。生体肝移植におけるグラフト採取術は安全で慎重な手技が必須である一方で、定型化可能な術式でもある。当科では2016年より右肝グラフト/左肝グラフト採取術において腹腔鏡補助下グラフト採取術を導入し、創の縮小と安全な手術の両立に取り組んでいる。また、持続可能な移植医療の提供を実現するため、肝胆膵外科学会の高度技能専門医の修練医による執刀数を増やし、毎週ビデオカンファレンスを開催することで手術の安全性を担保しながら技術の伝承にも注力している。腹腔鏡補助の導入前の前期120例と導入後の後期175例において、導入前後で術式に変化のない外側区域グラフト・後区域グラフト採取術、腹腔鏡補助を導入した左肝グラフト・右肝グラフト採取術における手術時間、出血量、合併症の発生率を比較検討し、修練医のラーニングカーブについても検討した結果、グラフトタイプによらず手術時間は前期と比較して後期で有意に短縮され、出血量や合併症の発生率は有意差を認めなかった。また、修練医症例では初めの10例で出血量が減少する傾向を認めた。腹腔鏡補助下グラフト採取術は安全に導入され、高度技能修練医にも着実に伝承されており、生体肝移植ドナーの身体的負担軽減に寄与していると考える。

  • 大平 真裕, 井手 健太郎, 小野 紘輔, 中野 亮介, 坂井 寛, 黒田 慎太郎, 田原 裕之, 小林 剛, 田中 友加, 大段 秀樹
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s119_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    "臓器移植におけるドナー特異的抗体(DSA)による抗体関連性拒絶反応(AMR)は予後に影響を与えるが、確立された治療法は無いためAMRの制御は喫緊の課題である。

    血液型不適合移植の減感作療法は、リツキサン投与によるB細胞除去でその成績は格段に向上した。しかし、DSAによるクロスマッチ陽性症例は成績が悪く、術前の減感作療法が模索されている。我々の検討では、DSA陽性症例に対してリツキサンを投与するとアロ反応性CD4 T細胞が活性化して、移植後に細胞性拒絶反応が増加した。マウス皮膚移植モデル解析より、そのメカニズムは制御性B細胞の減少であり、DSA陽性症例に対するリツキサン投与は慎重であるべきと考える。

    一方、移植後にDSAが出現するde novo DSAの危険因子や予防法は明らかでない。HLAのMolecular mismatchレベルが肝移植後のde novo DSA発現に関連していた。また、抗体産生を司る免疫機能の一塩基多型がDSA産生に関連することも明らかにした。CTLA-4, CXCR5の一塩基多型は腎移植後のde novo DSA発生率を予測し得た。治療に関しては、CLTA-4Igによるde novo DSA産生抑制に向けた研究を行っている。

  • 田崎 正行
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s119_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    「免疫抑制薬の進歩により短期の腎移植成績は改善したが、中・長期の成績は改善していない」という序文は、以前より何度も目にしたことがあると思う。御存じの通り、慢性抗体関連型拒絶反応が中・長期の移植腎生着率改善を阻む最も大きな原因である。残念ながら、FDAに認可された治療薬はない。しかし、少しずつではあるが様々なことが解明され、この分野に関する医療は進歩してきた。例えば、HLA遺伝子タイピングは次世代シーケンサーにより高解像度タイピングが可能になり、抗HLA抗体はルミネックス法により単一HLA抗原に対する抗体を網羅的に解析できるようになった。わが国でも2018年よりHLA抗体スクリーニング検査、抗体特異性同定検査が保険収載され、抗体関連型拒絶反応をより早く発見できるようになった。さらに、HLAMatchmakerやPIRCHE2などの解析ソフトを利用してB細胞エピトープやT細胞エピトープの解析を行い、de novo DSAを産生しやすいペアかどうかを予測することも可能になった。また、DSAにおいても、補体結合性抗体やIgGサブクラスにより移植腎予後が異なることが判明した。抗体関連型拒絶反応の免疫応答の理解も深まり、様々な治療が試され、現在も進行中の前向き試験も複数存在する。我々の実臨床のデータも踏まえ、抗体関連型拒絶反応をどう予測し、どう予防し、どう治療するかを一緒に考えたい。

  • 中川 健, 大段 秀樹, 湯沢 賢治, 剣持 敬, 西 慎一, 江川 裕人
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s120_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    【目的】日本移植学会が推進する臓器移植時使用医薬品の薬事承認取得及び保険適用の一環として、抗体関連型拒絶反応(ABMR)発現腎移植患者でのリツキシマブ投与の有効性及び安全性を確認する臨床第III相試験が実施された。【方法】血清クレアチニン値の悪化を伴い、2017年版Banff分類でActive ABMR又はChronic active ABMRと診断した16歳以上の患者を対象に、ステロイドパルス及び血漿交換を実施後、リツキシマブを1-2回投与した。被験者をリツキシマブ投与から6ヵ月後まで観察し、有効性は中央病理診断により、Active ABMR(4例)又はChronic active ABMR(21例)と診断された25例を対象にリツキシマブ投与開始1ヵ月後の血清クレアチニン値が治療開始前の値から改善又は悪化していない症例の割合により評価した。【結果】血清クレアチニン値の平均値は、治療開始前と比較しリツキシマブ投与開始1ヵ月後にかけて低下し、有効性の結果は76.0%(19/25例)で、廃絶および死亡は認めなかった。リツキシマブを1回以上投与した28例の安全性評価では、リツキシマブの副作用は16例32件発現を認めた。重篤な有害事象として透析関連合併症を1例で認めたが、リツキシマブの関連性は否定された。【考察】腎移植後のABMR患者に対するステロイドパルス療法及び血漿交換にリツキシマブを併用した場合の有効性および忍容性が認められた。他臓器のアンケート解析と併せて保険申請の予定である。

  • 藤山 信弘, 齋藤 満, 山本 竜平, 提箸 隆一郎, 齋藤 拓郎, 青山 有, 嘉島 相輝, 沼倉 一幸, 成田 伸太郎, 羽渕 友則
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s120_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    【目的】腎移植後長期フォロー患者におけるDSA-DR/DQの発生に対する危険因子を明らかにするための検討を行った。【方法】2001年以降腎移植施行後の長期フォロー患者210名に対し、Luminex法による抗HLA抗体検査と、HLAアリル型に基づくde novo(dn)DSA判定を行った。DSA検査直近1年の外来タクロリムス(Tac)トラフ値、ミコフェノール酸モフェチルまたはエベロリムス服用の有無、HLAマッチメーカーによるEpitopeミスマッチ数及びPIRCHE解析のスコアからdnDSAとの関連性を統計学的に評価した。【結果】DSA-DR陽性は5名、DSA-DQ陽性は15名であった。dnDSA累積発生に対するカプランマーヤ―解析では、Epitopeミスマッチ数5以上(HR6.02, p=0.006)、PIRCH IIスコア24以上(HR3.67, p=0.041)で有意に産生率が高く、Tacトラフ平均値3.6ng/mL以上(HR0.0.31, p=0.025)で有意に低かった。比較した他の因子に有意な差は無かった。重回帰分析から、Epitopeミスマッチ数5以上及びTacトラフ平均値低値がDSA-DR/DQ産生の有意な危険因子として抽出された(各々HR6.99及びHR0.346)。【考察】dnDSA産生を回避するためには、Epitopeミスマッチ数を考慮したドナー選択と移植後Tac血中濃度の適切なコントロールが重要であることが示された。

  • 堀田 記世彦, 岩原 直也, 高田 祐輔, 広瀬 貴行, 辻 隆裕, 村上 正晃, 篠原 信雄
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s121_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    慢性抗体関連型拒絶反応(CAAMR)の克服が、腎移植の長期成績向上に不可欠であるが、確立した治療法はない。それ故、我々はCAAMRを早期発見しうる診断法の開発を行っている。パラフィン切片より目的遺伝子の発現量を測定する手法を確立し、組織的に正常で3年後の移植腎の状態が確認されているプロトコール生検の遺伝子検索を行った。結果炎症に関連する数種類の遺伝子の発現よりCAAMRスコアを算出したところ、3年後にCAAMRに至る症例では至らない症例と比べ有意にCAAMRスコアが高かった。非侵襲的な尿を用いた早期診断法の確立を試みている。ヒト腎細胞を用いたRNAシーケンス解析より、炎症に関連する2つの候補遺伝子(ORM1、SYT17)を選定しCAAMR患者の検体で解析したところ、上記の遺伝子のCAAMRの腎組織での発現は亢進していた。更に非CAAMR患者と比較した結果、尿中ORM1,SYT17蛋白は有意に高値であり、2遺伝子がCAAMRのバイオマーカーになりうる可能性を見いだせた。また、血液を使用した診断法として、リンパ球混合反応(MLR)にてCAAMR患者の免疫反応を評価した。ドナーに対するCD4+、CD8+T細胞の反応がCAAMRで亢進していた。また、DSA陽性で組織学的にCAAMRに至っていない症例でも同様の所見が得られ、CAAMRが発症前に診断できる可能性が見いだせた。以上、腎組織、尿、血液を用いた当研究室で開発中のCAAMRの早期診断法について報告する。

  • 平田 真章, 伊藤 孝司, 進藤 岳郎, 八木 真太郎, 田中 里奈, 藤本 遼, 中村 健治, 万木 紀美子, 菱田 理恵, 小林 恭, ...
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s121_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    移植後に産生されるDSAは臓器によらず予後不良因子とされる。しかし、DSAの発生要因や発生したDSAが移植臓器へ及ぼす影響については未解明な点が多い。我々はDSAの発生とその影響において、移植臓器間での共通・相違点という観点から、臓器横断的な抗体関連拒絶に対する治療戦略の開発を目指してきた。

    京都大学の生体肝移植(小児173例、成人159例)、肺移植(生体182例、脳死151例)、生体腎移植(47例)レジストリを用いた解析では、移植後の累積DSA発生率は、HLA-Class1/2抗体:小児肝6.9/41.0%、成人肝1.9/15.1%、生体肺3.1/10.3%、脳死肺9.3/15.9%、生体腎2.1/8.5%であった。脳死肺移植では移植後1年以内の早期のDSA発生が多い一方、その他の臓器ではDSAは移植後経過と共に徐々に発生した。また、全ての臓器においてドナーとレシピエント間のHLAエピトープの不適合数がDSA発生に寄与した。一方で、脳死肺移植、生体腎移植ではDSA発生はグラフト予後と相関したが、小児生体肝移植では、DSAはグラフト肝の線維化、免疫抑制剤の数に影響したものの、移植後長期であっても予後への影響は乏しかった。

    各臓器に共通して、DSAの発生には不適合HLA分子の免疫原性が大きく関与することが示唆された。一方でDSAの影響は臓器毎に異なり、HLAの発現量や各臓器の予備能が関わると考えられた。

  • 中川 健, 大段 秀樹, 湯沢 賢治, 剣持 敬, 西 慎一, 江川 裕人
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s122_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    【目的】日本移植学会が推進する臓器移植時使用医薬品の薬事承認取得及び保険適用の一環として、DSA・抗HLA抗体陽性生体腎移植患者におけるリツキシマブ(RTX)の脱感作及びタクロリムス(TAC)の術前投与期間延長の有効性及び安全性を確認する目的で、臨床第III相試験が実施した。【方法】CDCXM、FCXM又はDSA陽性の16歳以上の患者を対象に、RTXの脱感作として移植14日前及び1日前の原則2回、TACの術前投与として移植28~7日前から1日前まで、MMF、ステロイドを移植14日前より併用し、必要に応じて血漿交換を実施した。評価期間は、RTXは移植後48週まで、TACは移植前までとした。【結果】25例が登録され、RTX及びTACを1回以上投与した24例を評価対象とした。治験薬と関連しない理由により治験中止となった2例を除いた22例で腎移植が実施された(腎移植実施率:91.7%)。ABMR無発現率は、移植24週後が86.4%、移植48週後が81.8%であり、廃絶は認めなかった。術前投与期間を通じて、末梢血液中TAC濃度は良好にコントロールされた。それぞれの評価期間中に、RTXの副作用は18例、重篤な副作用は3例、TACの副作用は3例に認められ、重篤な副作用は認められなかった。【考察】DSA・抗HLA抗体陽性生体腎移植患者に対して、RTX及び7日以上のTAC術前投与を含む脱感作療法実施時の有効性及び安全性が確認された。他臓器のアンケート解析と併せて保険申請の予定である。

  • 角田 洋一, 松村 聡一, 深江 彰太, 田中 亮, 中澤 成晃, 山中 和明, 筒井 健司, 比嘉 洋子, 川村 正隆, 蔦原 宏一, 高 ...
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s122_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    【目的】2019年に免疫グロブリン静注療法(以下IVIG)の適応疾患・病態に、「抗ドナー抗体陽性腎移植における術前脱感作」が新たに加えられた。IVIGは単独または血漿交換やリツキシマブとの併用で、ドナー特異的抗体(以下DSA)に対する有用性が示されている。IVIGを用いた脱感作療法の成績について報告する。【方法】大阪大学および大阪急性期・総合医療センター泌尿器科において、腎移植前の脱感作療法にIVIGが使用された症例22例を対象として成績を検討した。【成績】術前のフローサイトメトリークロスマッチ(FCXM)はT陽性が2例、B陽性が7例、T・Bともに陽性が10例、陰性が3例であった。FCXM-Tのratioは平均2.41、FCXM-Bは平均9.78であった。DSAはclassIのみが10例、classIIのみが8例、classI+classIIが2例、non-HLA抗体が2例であった。DSAのMFIは平均6132であった。IVIGの投与量は1~4 g/kgであり、二重濾過血漿交換または全血漿交換と併用し、一部の症例ではリツキシマブも併用した。9例(40.9%)において移植腎生検で抗体関連型拒絶反応(以下AMR)と診断されたが、それらの症例における移植腎機能は良好であった。Death with functioning graftを1例のみ認めたが、その他の症例は全例生存・生着している。【結論】移植腎機能は安定しているものの、AMRの発生率は比較的高い結果となった。IVIGの最適な投与量やスケジュールを含めた脱感作療法の改善が必要と考えられた。

  • 伊藤 泰平, 剣持 敬, 栗原 啓, 會田 直弘
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s123_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    【背景】DSAに対し,脱感作療法によっても腎移植を回避せざる得ない免疫学的ハイリスク条件(Direct Cx T-warm陽性など)がある.海外ではDSA陽性腎移植に対し,積極的にドナー交換腎移植(KEP)が実施されることがあり,本邦においてそのニーズを調査した.【方法】2022年1-3月に腎移植実施131施設に記名式のWebアンケートを実施した.【結果】107施設(81.7%)より回答が得られた.2012-2021年の10年間で,本邦で257組の生体腎移植候補が免疫学的ハイリスクを理由に移植断念していた.断念理由の87.3%がDirect Cx T-warm陽性であった.76施設(71.0%)の施設が少なくとも1例の免疫学的ハイリスクによる移植断念症例を経験していた.また,66施設(61.7%)が本邦でもKEPは必要と考えていた.【今後の展望】DSA陽性腎移植に対し脱感作療法に積極的な本邦でも,克服しがたい免疫学的ハイリスク腎移植症例が多く存在し,KEPのニーズがあることが明らかとなり,KEPはDSA陽性腎移植における有用なAMR予防戦略の一つであると考えられる.本アンケート結果から多施設共同研究(2次研究)を開始した.2次研究では,移植不成立となった症例のデータを収集,KEPシミュレーションを実施し,本邦でKEPを実施した場合,DSAを回避してどのくらいの腎移植が成立するのかを検証する.

  • Selzner Markus
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s124_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    The landscape of liver preservation has significantly changed during the past decade. The traditional cold static storage has been supplemented with novel strategies of cold and warm oxygenated perfusion as alterative or additional preservation techniques. While oxygenated liver perfusion was initially developed to reduce graft injury and increase the donor pool, the opportunity for graft assessment and repair during perfused graft preservation has triggered significant interest. The future of perfused liver preservation will likely be the combination of normothermic regional perfusion in the donor, followed by cold and warm oxygenated perfusion, depending on the donor type. Prolonged liver perfusion will offer exciting opportunities for graft modification in the years to come.

  • Watanabe Yui, Kazunori Ueda, Sho Murai, Tatsuaki Watanabe, Takeo Togo, ...
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s125_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    Over the years, lung preservation strategies have evolved significantly, transitioning from intracellular to extracellular solutions. Notably, Perfadex, ET-Kyoto, and EP-TU solutions have become widely accepted. The inception of ex vivo lung perfusion (EVLP) and the adoption of 10 degrees preservation have substantially transformed lung transplantation procedures.

    Yet, the journey towards optimal organ preservation continues. The ultimate goal is to substantially reduce cellular metabolism, mirroring a state of metabolic arrest. Such a state is observed in hibernation, where mammals like squirrels and bears reduce their basal metabolism to 1-25% of normal levels to survive harsh conditions. Recent advances demonstrate the possibility of pharmacologically inducing a similar hypometabolic state at the cellular level.

    We delve into the potential of augmenting lung preservation duration by integrating hibernation-inducing agents into the extracellular fluid lung preservation solution and the EVLP perfusate. Our goal is to safely induce a hypometabolic state in solid organs, which may potentially redefine long-term preservation of organs.

  • Okumi Masayoshi, Yuta Inoue, Masatsugu Miyashita, Osamu Ukimura
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s125_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    The use of high-risk kidney grafts for transplantation requires optimization of pre-transplant evaluation and preservation reconditioning strategies to reduce organ discard rates and improve short- and long-term clinical outcomes.

    It is becoming further recognized that active oxygenation plays a central role in dynamic preservation strategies that realign mitochondria and restore cellular energy profiles, regardless of storage temperature. Reducing oxygen-related mitochondrial succinic acid accumulation improves the harmful effects of ischemia-reperfusion injury.

    The difference between normothermic and hypothermic machine perfusion with respect to organ evaluation, preservation and reconditioning, as well as logistics and economic implications, are factors to be considered in each clinical field. Therefore, these various techniques should be considered as complementary to the perfusion strategies that are selected according to functional intention and resource availability.

    In this symposium, we would like to present an overview of the current clinical evidence for normothermic and oxygenated hypothermic machine perfusion either as a continuous or end-ischemic preservation strategy.

  • Iwamoto Hitoshi, Naoto Matsuno, Osamu Konno, Yuki Nakamura, Yasuo Ishi ...
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s126_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    Background: Machine perfusion (MP) has not been widely used because of its low demand in Japan. Here, we report the first clinical trial of machine perfusion for kidney transplantation in Japan. We used the domestic machine to preserve the graft. The flow rate, perfusion pressure, renal resistance, and temperature were monitored during continuous hypothermic perfusion. Results: From August 2020 to the present, 15 cases of perfusion-preserved kidney transplantation have been performed. Of these, eleven and four cases were performed using organs donated after brain death (DBD) and cardiac death (DCD), respectively. The average age of the recipients was 54.5 years. The average total ischemic time was 693 minutes. The average MP time was 149.8 minutes. A total of 9 cases had delayed graft function. The best creatinine level during hospitalization was 1.30 mg/dL. There were no primary non-functional cases and perfusion preservation was safely performed in all cases. Conclusions: we present this report as the first clinical trial on machine perfusion for kidney transplantation from marginal donors with DBD and DCD in Japan

  • Nakamura Yuki, KATSUYUKI MIKI, TAKAYOSHI YOKOYAMA, MIRUZATO FUKUDA, MA ...
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s126_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    In kidney transplantation, ischemia-reperfusion injury results in a high rate of delayed graft function.Methods: Thirty patients underwent cadaveric kidney transplantation from January 2015 to July 2022. These patients were classified into two groups according to 12 patients received transplants from extended criteria donors(ECD) and 18 received them from standard criteria donors(SCD).Three of ECD group were preserved by machine perfusion. We used the CMP-X08 perfusion devise (Chuo Seiko Co.,Ltd) and Belzer MPS solution to preserve the donated organ.Results: Patient survival was observed for all patients. Renal function at 3months and 1year was better in SCD group. In ECD group, renal function at discharge and 3months better in simple cold storage(SCS), but renal function after 6months was better in hypothermic machine perfusion(HMP).There was no significant difference in graft survival between ECD and SCD. Conclusion: There were no significant differences in outcomes of our patients who received transplants from ECD or SCD. It was suggested that kidney transplantation with machine perfusion preservation for ECD group would maintain good renal function.

  • Bekki Yuki, Shinji Itoh, Takeo Toshima, Shohei Yoshiya, Takuma Izumi, ...
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s127_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    The aim of this study was to examine the influence of machine perfusion (MP) and normothermic regional perfusion (NRP) on the utilization and outcomes of liver transplantation (LT). Using US national data, 4642 donation after circulatory death (DCD) donors between 2016 and 2021 were analyzed. 4542 were with static cold storage(SCS), 79 were with MP(1.7%), and 21 were with NRP(0.5%).The utilization rates of liver in DCD with MP or NRP were significantly higher (P=0.001; 92.4% or 95.2% vs 70.4%). There were no graft failure with primary nonfunction or ischemic cholangiopathy after LT with MP or NRP. MP or NRP significantly increased the utilization rate of livers with favorable outcomes after LT. Increasing use of MP or NRP should be considered in low utilization donors to expand donor pool.

  • Soyama Akihiko, Syuhei Yoshimoto, Takanobu Hara, Hajime Matsushima, Ma ...
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s127_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    Background and Aim: The development of a machine perfusion (MP) device that can perform both normothermic perfusion (NMP) and hypothermic oxygenated machine perfusion (HOPE) more safely and for a longer period of time is demanded. We report our efforts to develop a MP. Methods: The developed MP device employed perfusion using hydraulic gradient. 1.Using a porcine model, grafts from donors after circulatory death (DCD), 1 hours after cardiac arrest and long-term 14 hours cold ischemic model of donation after brain death (DBD) were transplanted. DCD grafts were placed in a negative pressure sealed container to remove thrombus and to improve perfusion kinetics. Both models conducted 3 hours NMP (37 degree Celsius). 2. We developed a HOPE device. Results: In both DCD and DBD model, bile production and metabolic improvement, the survival for 3 days after transplant were confirmed. For developing HOPE device, pumpless perfusion with cold perfusate (10 degree Celsius) was supplied. Conclusion: We succeeded a MP device for both NMP and HOPE. We continue to improve and establish the MP device for liver transplantation in Japan with considering practical situation of organ donation in Japan.

  • 後藤 憲彦, 二村 健太, 島本 侑樹, 西沢 慶太郎, 小玉 寛健, 姫野 智紀, 長谷川 雄基, 岡田 学, 平光 高久, 鳴海 俊治, ...
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s128_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    サイトメガロウイルス(CMV)は移植された臓器を感染目標とするのが一般的であるが、腎移植だけは例外で、移植腎ではなく微熱や倦怠感のようなCMV症候群がメインとなる。CMV抗体を獲得していない腎移植候補者の増加から、CMVミスマッチ(ドナー抗体陽性/レシピエント抗体陰性)間での腎移植も増えている。周術期のCMV感染で問題となるのはドナー腎からの初感染である。当院では、ABO不適合、HLA不適合腎移植術後3ヵ月と、ATGにて拒絶反応治療後3ヵ月に対して、バルガンシクロビル(VGCV)を3ヶ月予防投与している。CMV症候群は、血中CMV核酸定量検査(CMV PCR)による早期抗ウイルス薬開始でほとんどが管理可能である。CMV PCR検出感度以上でVGCV開始し、PCR 100IU/ml未満で終了する。薬剤性の白血球減少には注意が必要である。腎移植後CMV感染症は、網膜や肺を巻き込むことがほとんどないが、消化管へのCMV初感染は、気づくのが遅れることがある。上皮ではなく粘膜下層へ感染が及ぶことが多いため、血管を巻き込んで消化管出血や腸穿孔を引き起こす。組織内のCMV感染を証明することで確定診断され、血中CMV核酸定量検査は通常陰性である。ガンシクロビル(GCV)を原則2週間使用する。CMV抗体陽性レシピエントで周術期に組織侵襲性CMV感染症に至ることは稀である。CMV PCR 3000IU/ml以上でVGCV開始し、PCR 1000IU/ml未満で終了する。免疫抑制薬の調節も重要である。当院での経験を紹介する。

  • 日下 守, 佐藤 滋
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s128_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    臓器移植に関連する EBV (Epstein-Barr Virus) 感染症は, 確立した予防法も有効な治療法もないウイルス感染症であるとともに, PTLD (Post-transplant lymphoproliferative disorders) 発症のリスク因子である。 領域・診療科を超え移植医療に関与するあらゆる職種に広く認識される必要があり, 共通の指針に基づくガイドライン作成が課題であった。日本移植学会医療標準化・移植関連検査委員会が中心となり、2018年4月の診療報酬改定によりEBV核酸定量検査(PCR)が保険収載されたこともEBVガイドライン作成を推進する原動力となった。EBV-DNAの定量方法や報告単位は統一されておらず, 異なる施設での結果比較ができないことが問題であり、国際単位 (IU) を用いた定量単位の統一が推奨されている。移植後EBV感染の頻度は, 移植臓器ごとに異なり、症状としては, 発熱の頻度が最も高い。移植後EBV初感染 (再活性化) のスクリーニングとして、移植前にドナーとレシピエントのEBV抗体検査を行い、移植後はPCR でEBV-DNA定量を経時的に行うことが推奨される。PTLDの発症予防と早期発見にはPCRによる血中EBVの定量モニタリングが有用で、EBVの病態, 病勢を把握するのに不可欠であり, EBV量を少なく保つことでPTLDの発症頻度を減らすことができるとされている。本シンポジウムでは、EBV感染の予防と治療 について 臓器移植関連EBV感染症診療ガイドライン2021年版の要点から述べる。

  • 高園 貴弘
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s129_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    国内の肺移植などの固形臓器移植の実施件数はコロナの影響もあり鈍化傾向はあるものの、全体としては徐々に増加傾向にある。肺移植患者の死因において感染症の占める割合は高く、そのコントロールは非常に重要な課題であるが、特にアスペルギルス症をはじめとした深在性真菌症は移植後初期から晩期まで起こりうる注意すべき感染症である。移植領域における深在性真菌症の診断法の多くは侵襲的な検査ではなく、画像所見に加え、ガラクトマンナン抗原やβ-D-グルカンなどの補助診断法が重要である。ただし、好中球減少のない侵襲性肺アスペルギルス症では、画像所見も多彩である。さらに、補助診断法に関しては海外では遺伝子診断キットが臨床応用されてきているものの、国内においては、この10年でもあまり劇的な進歩はなく、十分な感度とはいえない。そのため、局所への検体採取アプローチが早期診断と治療法選択のためには重要となる。治療薬に関しては、ようやく、イサブコナゾールも国内でも使用可能となり治療の選択肢が増えてきた。当教室では比較的積極的に気管支鏡検査による検体採取も心がけているが、自験例の紹介も踏まえ、臟器移植領域の深在性真菌症の予防、診断、治療のポイントについて、解説したい。

  • 松村 康史
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s129_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    移植周術期の細菌感染症の予防には、移植前スクリーニングと適切な周術期予防投薬が挙げられる。臓器別の周術期抗菌薬に加えて、ドナー臓器の細菌培養結果やレシピエントの耐性菌検出歴、予防投薬の有無、免疫抑制状態を参考に予防投薬を選択する。

    固形臓器移植患者においては、移植時から免疫抑制が始まることが多く、周術期に問題となるのは、日和見病原体よりもドナー由来感染症と院内感染である。濃厚な医療曝露(抗菌薬含む)と関連して、薬剤耐性菌感染症が多いとされる。抗菌薬投与はC. difficileのリスクも上昇させる。移植臓器を含む手術部位感染症に加え、血管内カテーテル感染、肺炎、尿路感染症、腹腔内感染症などの鑑別を進める。経験的治療としては、まずは抗緑膿菌作用を有するβラクタムの投与を行い、加えて想定される原因菌に応じて抗MRSA薬、耐性GNRを標的とした2剤目の抗緑膿菌薬、細菌以外については、抗真菌薬、ST合剤、抗ウイルス薬の投与を検討する。これら抗微生物薬を投与する際は、免疫抑制剤の調整や相互作用にも注意が必要である。拒絶やGVHDなど感染症以外の疾患の可能性を考慮することも重要である。

  • 石川 裕輔, 肥後 太基
    2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s130_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    我が国では心臓移植手術を受ける患者のほとんどは補助人工心臓を装着して待機しているが、いつ心臓移植手術にたどり着けるのかを事前に予測するのは困難であることが多い。補助人工心臓を装着することで、移植までの間に全身状態が改善し良好な栄養状態で心臓移植を待機することができる可能性が高い一方で、補助人工心臓関連感染症や脳血管障害、あるいは大動脈弁閉鎖不全や右心不全といった長期管理に伴う合併症のためにサルコペニアあるいはフレイルに陥る場合もあり、一言で心臓移植待機患者と言っても,その栄養状態は患者によってさまざまである。BMI と心臓移植後の予後についての検討では一般的には U 字型の曲線 を示すことが多いとされ適正なBMIの維持が重要である。特に低栄養の患者については、積極的な栄養評価と介入が求められる。心臓移植術後の栄養管理については、心臓移植術後の栄養管理では、免疫抑制剤投与に伴う摂取してよい食事に制限が生じること、心臓移植術後の長期予後改善のための動脈硬化の危険因子の管理が重要であり、継続的な栄養管理が求められる。

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