抄録
イネの耐塩性機構を解明する目的で, 耐塩性程度を異にする2品種, Nona Bokra (耐塩性) およびChiem Chanh (非耐塩性) を用い, 水耕栽培による高濃度のNaCl処理を行った.得られた結果は以下の通りである.
1. 150mM NaCl処理下での相対生長率は, Nona BokraがChiem Chanhの2倍以上大きく, 対照区に対してもNona Bokraは3分の2程度の生長速度を保っていた.塩処理後6日目の個体当たりの光合成速度は, Nona Bokraでは処理直前の30%を保っていたのに対し, Chiem Chanhでは負の値に低下した.
2. 150mM NaCl処理後, Nona Bokraの第8葉の光合成速度 (酸素電極法) は, 対照区と変わらないが, Chiem Chanhでは時間とともに低下した.塩処理後の葉内Na+含有量は, Nona Bokraではほとんど増加しなかったのに対し, Chiem Chanhでは急速に増加した.
3.培養液のNaCl濃度が高まるに伴い, 第8葉のNa+含有量は両品種とも増加するが, Nona Bokraでは225mMまでは比較的低い値を保っていたのに対しChiem Chanhでは75mMから増大した.葉内Na+含有量と光合成速度 (酸素電極法) との関係から, Nona Bokraの光合成速度もChiem Chanh同様, 葉内Na+含有量の増大に伴い低下することがわかった.
4.両品種とも, 葉片を直接処理した場合, Sorbitolによる低浸透ポテンシャル処理条件下でも, 光合成速度はわずかしか低下しなかったが, NaCl処理条件下では著しく低下した.このことは, 塩処理による光合成速度の低下は, 高濃度NaClによる水ストレスの影響によるよりも, NaClの直接的な阻害によるところが大きいことを示唆している.
5.以上の結果, 耐塩性品種であるNona Bokraは, かなりの高NaCl濃度まで, 長期間にわたり, 活動中心葉の塩含有量を低く保つことができ, その結果として, 高い光合成速度を維持していることが推察された.