抄録
ナガササゲの生育収量に及ぼす時期の異なる短期間の湛水処理及び異なる窒素処理の影響を調査した.
供試材料として, 品種“TKC-83”を用い, ビニールハウス内で生育させた.使用した土壌は, 土壌微生物の影響を避けるため, 事前に殺菌した.収量に関する実験は, 3種の湛水処理 (対照を含む) と2種の窒素処理とによる要因試験として行った.湛水処理は, 栄養生長期 (第2~3三出複葉が展開した時期) 及び生殖生長期 (第一番花の開花した直後) に4日間行った.供試個体の半分には, 根粒菌の接種を行った.収量及び収量に関与する幾つかの特性について調査した.それぞれの処理が栄養生長に及ぼす影響を調査するため, 播種27, 31, 41, 51, 62日後にサンプリングし, 各器官毎に生体重と乾物重を測定した.
根粒菌接種を行った植物においては, 接種を行わず無機窒素を与えた植物より, 地上部地下部とも生育が劣った.地上部の生育は, 湛水処理により抑制されたが, 根の生育は, 湛水処理直後に急速な回復を見せた.
根粒菌接種を行った植物では, 接種を行わなかった植物より, 子実収量も若莢収量も低かった.これは, 莢数の減少によるものであり, 根粒菌接種を行った植物は, 接種を行わず無機窒素を充分に与えた植物に較べ, 供給された窒素の量が少なかったものと考えられる.
子実収量は栄養生長期の湛水処理により有意に減少したが, 生殖生長期の処理によっては影響を受けなかった.このことは, 湛水処理に対するナガササゲ植物体の感受性が, 生育段階によって異なっている事を示している.収量に関与する種々の特性のうち, 側枝上の莢数と有効側枝の数が栄養期湛水処理により減少しているので, この処理による収量の減少は, 側枝の生長抑制によるものであると思われる.処理直後の地上部の生長抑制に伴う地下部の急速な回復, 或は, 処理による内生植物調節物質含量の変化等がこの減少の原因として考えられる.
若莢収量に及ぼす湛水処理の影響についても, 子実収量において認あられたものと同様の傾向が見られた.しかしながら, 栄養生長期の湛水処理の影響は, 子実収量に対するものより軽減された.
本実験では, 処理による影響が, 子実収量においても若莢収量においても, ほぼ同様に現れ, 若莢収量に及ぼす処理の影響を子実収量におけるそれから推定できることが示された.このことは, 実際のナガササゲの育種において重要である.なぜなら, 選抜基準として子実収量を用いることにより, より効率的にスクリーニングを行うことが可能だからである.
短期間の湛水処理の影響が根粒菌接種の有無により異なるかどうかは, 明らかでなかった.これは, 根粒菌接種の影響に低窒素の影響が交絡したためである.