熱帯農業
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サゴヤシの試験管内育種と育苗
第1報 胚培養条件の検討とマルチプルシュート誘導について
久島 繁ジョン F.S.新井 勇治シム E.S.
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1991 年 35 巻 4 号 p. 259-267

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抄録

サゴヤシ (Metroxylon sp.) の試験管内育種と育苗系の開発を目的に, 今回胚培養の条件の検討及び胚培養体からのマルチプルシュート誘導条件等の検討を行った. (1) 培地に対する活性炭の添加は胚の発芽・生長に必須でなかった.しかし, 発芽と生長を促進した. (2) 培養初期には暗培養は明培養より発芽・生長に促進的と見受けられたが, 長期の培養ではその差は明瞭でなくなった. (3) 25mg/lのビタミンB1あるいは510mg/lまでのリン酸ソーダに発芽生長促進効果は認められなかった. (4) 今回検討した3種の培地のうち今回一部改変して用いたムラシゲ・スクーク培地において最も良い結果が得られた. (5) 検討した濃度の範囲では150mg/l付近のイノシトールに最も生長促進効果がみとめられた. (6) 胚培養に対するサイトカイニンとオーキシンの組合せ効果を検討した.150μMのベンジルアミノプリンあるいはナフタレン酢酸の単独投与が胚培養に効果的であった.時おり高濃度の組合せでマルチプルシュートが認められたが, 誘導率は低かった. (7) マルチプルシュートの起源は節から発生したサッカーと考えられた. (8) 胚培養体から不定芽の発生も観察されたが例数は極めて限られていた. (9) シュート増殖の別法として発芽体から切除したシュートを垂直に2分割して培養したところ約50%の分割シュートが生長した. (10) この結果今回3種の大量迅速育苗系の可能性が示唆された. (11) 多くの発芽体はペーパーウィッグ法で3~4月以内に20~25cmに生長した.1000ppmまでのジベレリンによる発芽体に対する伸長促進効果は認められず阻害が認められた.20~25cmに生長した幼植物を順化後, 土壌移植あるいはバーミキュライト耕したところ, すべて1月以内に枯死した.しかし, 1か月程度生存したものは新規の根を発達させていた.このことから順化には成功したが, 栽培に成功しなかった可能性が考えられた.
サゴヤシの産業化と自然環境保全における重要性, 育種と育苗の重要性等について論じた.

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