抄録
いもち病菌 (Pyricularia grisea) を接種したイネ幼穂中のフェニールアラニン・アンモニアリアーゼ (PAL) 及びチロシン・アンモニアリアーゼ (TAL) 活性とイネの品種及び選抜系統のいもち病抵抗性との関係を未接種のものと比較しながら調べた.PAL及びTALは, リグニンの生合成に必要な基本酵素である.酵素活性の日変化の分析は接種日 (未接種) を含めて6日間行った.供試材料に使用した愛知旭 (Pi-a) , レイホウ (Pi-a, Pi-ta2) の2品種及び穂いもち病抵抗性について選抜した強弱2系統 (未発表) の7F8-10 (+/+) , 7F8-8 (Pi-a, Pi-kh推定) はそれぞれ異なるいもち病抵抗性遺伝子 (括弧内に示した遺伝子記号) を有し, それぞれ異なるいもち病菌のレースに対応した抵抗性の有無・強弱を示す.その結果, PAL及びTALの酵素活性は接種日の1-2日後から未接種及び接種区のいずれも増加し, 2-3日内で最大値に達したが, 増加量は接種区の方が顕著に大きな値を示した.2つの酵素の中ではTALの酵素活性はPALのそれに比べて著しく小さく, レイホウ及び7F8-8では活性の最大値に達するまでの期間はPALより1日多く要した.結論としては, いもち病菌接種後のPAL及びTALの酵素活1生の変化は, 異なるいもち抵抗性遺伝子をもつ品種・系統によって有意に異なることがわかったが, 両酵素の活性変化といもち抵抗性遺伝子の作用との関係については, 今後より多くの同様な供試材料を用いた実験によって更なる検討が必要であろう.