開発プロジェクトによる技術移転・導入を円滑に進める, すなわち, 農民にとって受け入れ可能な技術開発のためには, 現地の限定要因を反映し, それに適合されてきたと考えられる, 現地農民による伝統的農業システムの研究, 理解が必要である.調査は, ナイジェリア国ニジェール州ニェンクパタ川集水域中流部のGadza村を中心とした地域で, 1994年8-11月および1995年6-10月に行われた.この地域には, 伝統的に稲作技術を持つヌペ人が居住しており, 低地では雨期に稲作を, 乾期には野菜を中心に栽培している.彼らが稲作システムのために低地に造成する栽培環境として, 畦あるいはマウンドの存在の有無, また, 畦の区画形態と大きさの違いにより, Togogi kuru, Togoko kuru, Togogi naafena, Togoko naafena, Ewoko, Baragi, Gbaragiの7形態が観察された.稲の生育状況, 雑草の繁茂, 水分条件, 栽培作物種の変化により, 7形態各々において, 各パターンで土壌が移動されることで, 各々の区画形態が変化する.土壌を移動させる理由について, 除草効果, 土壌養分の回復, 水分状況の保全との関係に着目した.各形態にコントロール区を設定し単位面積あたりの雑草のバイオマス量を計測したところ, 7形態中5形態でコントロール区の1/2-1/20となった.移動部分の土壌は, それより下部の土壌と比較して交換性塩基の量が高く, 置換生アルミニウムの量が低かった.微地形的には, Togogi kuruは凸部あるいは標高が高く傾斜があるところ, Togoko kuruは高く比較的平坦なところ, Togogi naafenaは凹部あるいは低く傾斜のあるところ, Togoko naafenaは低く比較的平坦なところ, Ewokoは水条件の悪いところ, Baragiは何らかの理由で休閑したのち再耕作する場合, Gbaragiは常に湛水するところで観察された.ヌペ人の伝統的低地稲作農業システムでは, 水田内の水分コントロールおよび地こしらえの方法として, 彼らが形成する様々な形態および大きさを持つ畦あるいはマウンドが, 「均平化」及び「耕耘」に代替する役割を果たしていると推察された.
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