熱帯農業
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塩処理による活性酸素の誘導と消去活性における耐塩性の異なるイネ2品種間の差異
沈 利星成瀬 幸敏金 栄厚小林 勝一郎臼井 健二
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1999 年 43 巻 1 号 p. 32-41

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抄録

耐塩性の異なる二つのイネ品種を用い, 葉の老化と活性酸素消去系の酵素活性の差異から耐: 塩性機構を調べた.2葉期に塩処理した苗の第3葉の伸長は, 日本晴よりAnnapurnaにおいてより大きく阻害された.第2葉によるNa+の吸収は, Annapurnaにおいて多かった.光化学系IIの葉緑素の光酸化による葉緑素螢光 (△Fv'/Fm') の減少や細胞膜の不飽和脂肪酸の酸化によるマロンジアルデヒドの生成の増加が塩処理後に観察された.これらは塩処理による地上部の生育阻害と同時に見られ, より塩感受性のAnnapurnaにおいてより大きかった.スーパーオキシドジスムターゼの活性は塩処理により増加し, その程度はより塩感受性のAnnapurnaにおいて高いレベルにまで誘導された.アスコルビン酸ペルオキシダーゼとグルタチオンリダクターゼも塩処理により誘導されたが, アスコルビン酸ペルオキシダーゼ活性のみが日本晴においてAnnapurnaより高く, グルタチオンリダクターゼには誘導の品種問差が見られなかった.しかし, カタラーゼ活性はこれらの活性酸素消去系の酵素とは異なり, 塩処理により急激に減少し, 特にAnnapurnaにおいて減少程度が大きかった.以上の結果から, イネ幼苗における塩害は活性酸素により発現し, 耐塩性の品種間差異は活性酸素の消去能力の差に起因し, これは主として過酸化水素を水に解毒する酵素であるアスコルビン酸ペルオキシダーゼとカタラーゼの活性と関連していることが示唆された.

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