抄録
北部ベトナムのキャッサバ栽培丘陵地で, 土壌侵食に及ぼす斜面傾斜, 土壌, 地被および雨量の各影響を明らかにするため, プロット試験地をハノイ市より北西40kmにあるVinh Yen Townに設置した.プロット数は合計10個, 各プロット面積は100m2 (長さ20m, 幅5m) , 地被はキャッサバ区と裸地区, 斜面勾配は8% (緩傾斜) と14.5% (中傾斜) である.プロットからの土壌損失量は日単位で, 植生被覆率は毎月1回, 雨量は10分間隔でそれぞれ2000年5月から9月まで (雨季) 観測した.全期間中の日土壌損失量の観測回数は, 観測開始時期が斜面ごとに異なったため相違し, 緩傾斜面31回, 中傾斜面22回であった.観測の結果, 斜面傾斜の影響は顕著で, 中傾斜面では, 緩傾斜面に比べ, 裸地区で3.3倍, キャッサバ区で5.0倍多い土壌損失が認められた.土壌については, れき, 砂, 粘土, シルト (それぞれ直径, >2.0, 2.0~0.02, 0.02~0.002, <0.002mm) およびこれら各粒径以上 (または以下) の土の各含有率と土壌損失量の相関関係を解析したが, このような粒度特性が土壌損失量に与える影響は確認できなかった.キャッサバ区の植生被覆率は, 観測開始月の8~9および13~15% (緩傾斜および中傾斜面) から最終月の30~34% (緩・中傾斜面) まで増加した.日土壌損失量については, プロット間の平均値の差に関するt検定から, 傾斜・土壌条件が同じ裸地区同士の場合でもなお土壌損失量に差があり, プロットサイト特有の影響が認められた.そして裸地区-キャッサバ区間の同検定から, このサイト特有の影響が支配的な場合があり, キャッサバ地被の影響はもしあったとしてもサイト特有の影響を超えるほど大きくはないと判断された.全期間中の10分間雨量の最大値は18.5mmで, 全期間中の10分間雨量のうち, 熱帯で土壌粒子の剥離を生じさせる閾値25mm hr-1 (降雨強度換算) 以上の観測回数は全体の7%に留まり, この割合は熱帯で通常40%以上であるのに比べると低い.最大10分間雨量と日土壌損失量の相関を分析し, 最大10分間雨量が多いほど日土壌損失量も多いという結果が得られた.土壌損失を生じさせる10分間雨量の閾値は, 2.3mm (降雨強度換算13.8mm hr-1) で, これは日本での観測例に近かった.