熱帯農業
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ベトナム・ハノイ周辺農村の地表水および地下水におけるヒ素発生とその関連要因
黒澤 靖望月 俊宏Tra Thi Lam HOThanh Huu NGUYENHai Nguyen DO平田 美由紀江頭 和彦
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2005 年 49 巻 1 号 p. 98-106

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抄録

近年アジアの大河流域で発生しているヒ素による水質汚染が, ベトナム紅河デルタの農村でも見られるかどうか, またヒ素が水中に発生しているとすればその要因は何であるかを明らかにするため, ハノイ周辺の3つの農村で地表水 (灌漑水路水, 溜池水) と地下水 (井戸水) のヒ素濃度, および土壌からのヒ素溶出に関連するpHおよびORPを測定し考察した.これら農村では年3作の作物栽培が行われ, 年間の化学肥料施用量は多い.採水は2004年3月に行い, 水中のヒ素濃度はICP質量分析装置で, pHおよびORPは携帯用pH計およびORP計で測定した.ヒ素は, 地表水と地下水の両者で検出された (最高濃度それぞれ約20と16mg/m3) .ただし, 地下水のヒ素濃度がWHO飲料水水質ガイドライン (10mg/m3) を超えた地点はわずかで, この地下水飲用による健康被害発生の恐れは少ない.本地域一帯は農村のため, 地表水のヒ素発生要因として, ヒ素を含むリン酸肥料, 農薬が農地から灌漑水路や溜池に流れ込んだことが考えられた.地下水のヒ素濃度は, 各農村のリン施肥量と相互に対応していないため, リン施肥により土壌中のヒ素が地下水に溶出したとは認められず, または溶出したとしてもその規模は小さい.これは地下水のpHまたはORPとヒ素濃度間に相関がないことからも裏づけられた.各農村で地下水のヒ素濃度が地表水のそれを大きく超える地点はないので, 地下水中のヒ素発生は, ヒ素を含む地表水の地下浸透によると考えられた.地下水のヒ素濃度は農村間で差異があり, 各農村の立地条件が影響していることが示唆された.

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