熱帯農業
Online ISSN : 2185-0259
Print ISSN : 0021-5260
ISSN-L : 0021-5260
濠州の稲作についての二, 三の知見
ケムラー G.
著者情報
ジャーナル フリー

1965 年 8 巻 3 号 p. 135-139

詳細
抄録

F.A.O.の作物統計によると濠州の稲作は世界第1の収量を示しha当り籾6t (玄米約5t) に達し, 日本の平均の5割増となつている.今春たまたまこの地帯を旅行し, その概況を知る機会を得た.主産地はニュー・サウス・ウェールス州の南部で南緯35℃ (京都は北緯35℃) 平均気温23.6℃, 土壌は軽砂土から重粘土まで種々である.
この地方の水稲栽培の歴史は浅く40年で, 米国カリフォルニアからカロロ種の種子をもつてきたのが始まりで, 今日栽培面積約2万haに達し, 1農家の平均栽培面積は約20ha (全耕作面積は240ha) である.
灌漑水はマルンビッジーおよびマルレイ河より人工導入による.雨量は極めて少なく, 1農家の栽培面積は20-30ha以下に厳重に制限されている.牧草との輪作で稲作は6~7年に1回行なう.
栽培は直播で耕起, 作土の均平をはかり, 1枚が広いので後に小畦をつくる.肥料は元肥に0~40kg/haといくらかの燐酸を施すのみで加里はやらない.9~10月に乾いた土に種子をまき, 少量の水を導入し発芽をはかり, 9~10cm・2~3葉になると灌漑し, 水深は12~22cmまでにする.生育期間の灌水, 給水量は, 1.5~2万m3/ha, 穂数はm2当り300~470, 1穂当り70完全粒, 1m2当り2.1~3.3万粒, 千粒重 (籾) はカロロ11種で約34g, したがつてha当り玄米5.7~9tに当る.
主要品種名および1963年の収量はヤンコ農試の記録では,
品種品籾重 (long ton/acre) 玄米 (t/ha)
早生カロロ3.77 7.57
カロロ11 4.21 8.45
晩生カロロ4.27 8.58
カルローズ4.20 8.44
ウオンパット3.85 7.73
ブルー・ボンネット50 2.70 5.62
カロロ11は水稲の3/4を占め, 短粒種, カルローズは中生種で新種.現在では長粒のブルー・ボンネット50が増えつつあり, 晩生で収量は低いが価格が高い.
イモチ病, ゴマハガレ病, 螟虫など被害がなく, 鳥害がわずかあるだけで, 粗収入は米価が約日本の1/3で, 日本の3万5千円に比し1万4千円と低く, 生産費を差引いた純収入でも日本の13, 745円より少ない8, 400円となるが, この低位は経営面積の差が補つて余りある.
耕作は機械化され収穫物運搬以外は全部1人で行ない, 反当りの延力が1時間6分という驚くべき省力になつている.

著者関連情報
© 日本熱帯農業学会
前の記事 次の記事
feedback
Top