ウイルス
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平成21年杉浦賞論文
エンベロープウイルスの粒子形成・出芽機構の解析
入江 崇
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2010 年 60 巻 1 号 p. 105-114

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抄録

 多くのエンベロープウイルスのマトリクス蛋白質やレトロウイルスのGag蛋白質は,粒子形成・出芽において重要な役割を果たしており,単独でウイルス様粒子(VLPs: Virus-like particles)を形成し,出芽する事が出来る.これらの蛋白質中に主に3種類のL-ドメインモチーフ配列(PPxY, P(T/S)AP, YP(x)nL)が同定され,出芽効率を上昇させるために,これを介して宿主のESCRT経路を利用するという,多くのエンベロープウイルスに共通の機構が明らかにされてきた.しかし,これらのL-ドメイン配列を持たず,上記の経路の関与が不明であり,出芽機構が明らかにされていないウイルスも数多く存在する.この様なウイルスのうち,主にセンダイウイルス(SeV)の出芽について,我々は以下のことを明らかにした.1) SeV M蛋白質によるVLPの出芽は,ESCRT経路に非依存的であるにも関わらず,そのN末端のYLDL配列を介してこの機構の構成分子であるAlix/AIP1と機能的に相互作用する.2) SeVのアクセサリー蛋白質の1つであるC蛋白質もAlix/AIP1と相互作用し,これを原形質膜にリクルートする事で出芽にESCRT経路を利用できるようにしている.3 ) さらにC蛋白質は,(-)鎖ゲノム及び(+)鎖アンチゲノムRNA合成のバランスを制御することにより,感染性ウイルス粒子の産生を最適化している.これらの結果は,SeVのユニークな出芽機構を明らかにしただけでなく,感染性ウイルス粒子産生効率を高めるための新しいウイルスゲノム合成制御機構を示すものである.

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© 2010 日本ウイルス学会
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