ウイルス
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最新号
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総説
  • 伊藤 直人, 西園 晃
    2024 年 74 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    ジャーナル フリー
     狂犬病は,犬などの哺乳動物を感染源とするウイルス性中枢神経系感染症であり,長い潜伏期間(平均数ヶ月)とほぼ100%の高い致死率を特徴とする.非常に効果の高いワクチンが存在する一方で,現在も確実な治療法は確立されていない.日本では,狂犬病予防法に基づき,犬の予防注射などの対策を徹底した結果,1957年に本病の撲滅に成功している.その後,日本では,本法に基づき,国際的に見ても厳格な狂犬病対策を継続してきた.一方,海外で感染した人が日本にて発症する,いわゆる輸入症例が,現在までに計4例確認されている.2020年5月に豊橋市で確認された4例目の輸入症例は記憶に新しい.2022年4月にはウクライナからの避難民が日本に同伴した犬の検疫に特例措置が取られたことで狂犬病の国内侵入を懸念する意見も多く聞かれた.さらに最近では,2024年2月,群馬県において複数の人を咬んだ犬が,狂犬病予防法で義務づけられた予防注射を受けていなかった事件を受け,狂犬病やその発生リスクについて強い関心が集まった.そこで本稿では,最近,大きく注目された狂犬病に焦点をあて,本病がどのような感染症かについて解説する.さらに狂犬病対策や医療の国内外の現状について概説しながら,今後の課題についても論じたい.
特集:ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン
  • 江川 長靖
    2024 年 74 巻 1 号 p. 9-16
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    ジャーナル フリー
     子宮頸がんは『適切なタイミングでのワクチン接種』と『適切なタイミングでの精度の高い検診』によって予防可能な疾患となった.予防の柱の一つであるHPV感染予防ワクチンについて,その開発におけるウイルス学的背景と経緯,そして実際の導入に関して簡単にまとめた.
  • 城 玲央奈, 角田 郁生
    2024 年 74 巻 1 号 p. 17-28
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    ジャーナル フリー
     本邦では年間3,000人が子宮頸がんにより死亡している.子宮頸がんの大部分は性交渉を介したヒトパピローマウイルス(HPV)の子宮頸部への感染が原因で発症し,高リスク型のHPVに対するワクチン接種で予防が可能である.2013年6月,HPVワクチン接種後に神経系を中心とする「多様な症状」が発生するという報告を受け,積極的接種の勧奨が取り下げられ,本邦のHPVワクチンの接種率は対象者の1%に満たない状態が続いた.2022年4月に積極的接種の勧奨が再開となったが,HPVワクチン薬害訴訟が現在も進行中であり,国民のワクチンに対する懸念が払拭されない一因となっている.そこで,我々は原告団が提示した「多様な症状」の理論的根拠とされる実験論文を科学的に評価した.理論的根拠は,①分子相同性仮説,②アジュバント仮説,③マウスを用いた動物実験である.本論文では,①および③について科学的に重大な欠陥があり,HPVワクチン接種後に特定の神経障害が誘発される根拠にはならないことを解説する.2025年3月のHPVワクチンキャッチアップ接種の終了が迫る今,本論文がHPVワクチンに対する正しい理解を広めるきっかけとなり,ワクチン接種率の向上につながることを祈念したい.
トピックス
2023年度杉浦奨励賞論文
  • 伊東 潤平
    2024 年 74 巻 1 号 p. 49-56
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    ジャーナル フリー
     生命科学がビッグデータの時代に突入して久しいが,ウイルス感染症学も例外ではない.特にCOVID-19以降,ウイルス感染症学は最もゲノムデータの豊富な生命科学分野の一つとなった.本稿では,膨大なゲノムデータの出現により可能となった「ウイルスの流行と進化を理解し,予測する」という新たなパラダイムについて,私のこれまで行ってきた研究を中心に解説する.加えて,私がこれまで行ってきたウイルス情報科学分野の発展に向けた取り組みについても合わせて紹介したい.
  • 浦木 隆太
    2024 年 74 巻 1 号 p. 57-66
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    ジャーナル フリー
     21世紀に入ってからわずか四半世紀の間に,SARS,パンデミックインフルエンザウイルス,MERS,ジカウイルス,SARS-CoV-2と様々なRNAウイルスによる感染症が流行してきた.このような新興・再興ウイルスが発生・流行した際,いち早くウイルスの性状を解析したり,予防法を開発することは,公衆衛生上非常に重要である.  筆者らは,ジカウイルスが精巣に損傷を起こし,精巣萎縮を引き起こすこと,蚊の唾液腺蛋白質を基盤としたワクチンがジカウイルスの蚊-哺乳類間伝播・感染を抑制すること,患者から分離されたSARS-CoV-2オミクロン変異株BA.2株,BA.4株およびBA.5株の病原性がオミクロンBA.1株と同程度であること,制御性T細胞を標的としたワクチン効果増強戦略が有効であることを明らかにしてきた.本稿ではそれらの知見について紹介させていただく.
  • 松本 祐介
    2024 年 74 巻 1 号 p. 67-76
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    ジャーナル フリー
     マイナス鎖RNAウイルスは多くの重要な病原体を含むグループであり,各ウイルスのゲノム複製基盤には共通点が多い.ウイルスたちは多機能なRNA依存性RNAポリメラーゼを持ち,核蛋白質に覆われたマイナス鎖RNAを鋳型にmRNA転写・ゲノム複製を行う.著者らは,ウイルスグループごとの共通点・相違点を明らかにすることで総論的にこれらのウイルスを理解することを目指している.モノネガウイルス目のパラミクソウイルス科はゲノムの塩基数が6の倍数で無ければ増殖できないRule of Sixの法則に従う.著者らは遺伝子操作系によってRule of Sixに従わないパラミクソウイルスの人工合成に成功し,これを用いたRule of Six存在意義の解明に挑んだ.また,ブニヤウイルス目のゲノム複製開始に重要なゲノム末端のプロモーター構造の機能解析を行い,クリミア・コンゴ出血熱ウイルスを含むナイロウイルス科において,他の分節型RNAウイルスとは異なるユニークなRNA合成の特徴を明らかにした.さらにボルナウイルスの核内で持続感染を成立させるというRNAウイルスとしては例外的な性質の解明を行った.
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