ウイルス
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最新号
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総説
  • 渡邉 瑞季, 生澤 充隆, 國保 健浩, 森岡 一樹
    2025 年75 巻1 号 p. 1-12
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/29
    ジャーナル フリー
    ランピースキン病(Lumpy Skin Disease, LSD)は,ランピースキン病ウイルス(LSD virus, LSDV)によって引き起こされる牛および水牛のウイルス感染症である.LSDを発症した動物では,全身,時には局所の皮膚に多数の結節が形成されるとともに,発熱,乳量の低下,流産などの臨床症状が認められる.皮膚の結節病変や,壊死して脱落した組織(sit-fast)には極めて大量のウイルスが含まれること,また環境中でのウイルスの安定性が高いことから,これらは水平伝播の重要な感染源となる.ただし,LSDVの感染は,主にヌカカ,サシバエ,ダニなどの吸血性の節足動物(ベクター)の咬刺によるため,本病の農場への侵入防止にはこれらのベクター防除対策が重要になる.予防には弱毒生ワクチンが有効であり,広く使用されているが,多くの発生国では本病を制圧するまでには至っていない.アジアでは,2019年に中国でLSDが発生して以降,東南アジアおよび東アジア諸国で発生が継続しており,我が国でも2024年11月に国内初発例が福岡県で確認された.本年1月以降(6月20日現在まで),国内での新たな発生は報告されていないが,周辺国では依然として流行が継続していることから,再侵入のリスクは引き続き高いと言える.
特集 : 麻疹について
  • 關 文緒, 竹田 誠
    2025 年75 巻1 号 p. 13-22
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/29
    ジャーナル フリー
    麻疹ウイルスは麻疹の病原体であり,強い感染力をもつ.免疫細胞に発現するSignaling lymphocytic activation moleculeと,上皮細胞に発現するnectin-4の両方の受容体を使用し,このことが麻疹の病態と強く関係している.世界的には小児死亡の主要な原因ウイルスであるが,非常に有効な弱毒生ワクチンが存在することにより麻疹排除が進められている.各国の麻疹排除により麻疹ウイルス野外株の遺伝子型は,近年B3とD8の2種類に減少した.このため,麻疹発生ケースの関連や追跡のために従来から用いられているN遺伝子の450塩基による遺伝子型分類に加えて,全ゲノム配列やM-F遺伝子間の非翻訳領域を利用する新規手法が試されている. 麻疹ウイルスは単一血清型であるが,遺伝子型間にはゲノム上の配列の違いがあり,B細胞エピトープやT細胞エピトープに差が見られるが,現在の弱毒生ワクチンは全ての遺伝子型に対して十分に有効である.一方で,ワクチンによる防御免疫は,自然感染による防御免疫と異なり時間により減衰していくため,ワクチン接種者における防御免疫の維持は今後,麻疹制御のために重要である.
  • 多屋 馨子
    2025 年75 巻1 号 p. 23-34
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/29
    ジャーナル フリー
    2025年は世界各地で麻疹のアウトブレイクが発生しており,日本においても2025年5月現在,COVID-19パンデミック以降では最多の報告数となっている.未接種未罹患の麻疹は感染力が強く,重症化のリスクも高いことから,1歳になったらすぐのMRワクチンの接種が重要である.また,6歳になる年度の第2期定期接種率を95%以上に上げる必要がある.小学生以上では,1歳以上で2回の麻疹含有ワクチンの接種記録を平時に確認しておくことが大切である.1990年4月2日以降に生まれた人は,2回の定期接種の機会があったが,受けているかどうかは記録で確認する.海外渡航前には1歳以上で2回の麻疹含有ワクチン接種記録を確認することが望まれる.また,一人でも麻疹患者が発生したら迅速な積極的疫学調査を実施し,麻疹に対する免疫を持たない感受性のある曝露者には,曝露後72時間以内の緊急ワクチン接種を実施することで発症予防の可能性がある.ただし,ワクチン接種不適当者に対しては曝露後6日以内の人免疫グロブリン製剤の筋注による重症化予防が健康保険適用されている.最も重要なことは,麻疹ウイルスに曝露する前の予防である.
トピックス
2024年度杉浦奨励賞論文
  • 石井 洋
    2025 年75 巻1 号 p. 51-58
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/29
    ジャーナル フリー
    HIVをはじめとする慢性持続感染症は,宿主免疫と高度に相互作用することで免疫病態を発現していることから,ワクチン等の免疫誘導による制御が困難である.我々は,霊長類を中心とした動物モデルにおける宿主免疫反応の解析を基盤として,宿主免疫によるウイルス制御機序の解明とワクチン開発への応用研究に取り組んできた.HIV感染症においては,経直腸感染防御効果を示すCD8陽性T細胞反応を選択的に誘導する新たなワクチン抗原設計基盤を確立するとともに,特定の抗SIV中和抗体の誘導を規定する宿主遺伝子多型を同定した.また,HIV研究で得られた知見や技術を活用し,ワクチン誘導中和抗体によるHTLV感染防御効果や,ワクチン誘導CD8陽性T細胞によるSARS-CoV-2複製抑制効果を明らかにした.
  • 田村 友和
    2025 年75 巻1 号 p. 59-72
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/29
    ジャーナル フリー
    重症急性呼吸器症候群,デング熱,ジカウイルス感染症,COVID-19など,近年世界で流行した新興・再興ウイルス感染症の多くは,プラス鎖一本鎖RNA(+ssRNA)ウイルスによって引き起こされている.本稿では+ssRNAウイルスのうち,様々な宿主と組織に指向性を持つウイルスが属するフラビウイルス科のウイルスを対象に,病原性および組織指向性を規定する因子を明らかにしてきた筆者らの成果を示す.遺伝子編集が自在に可能なリバースジェネティクス法を改良開発し,病態を反映する動物モデルを用いた感染実験にて,病原性発現におけるウイルスタンパク質の機能を明らかにしてきた.また,ウイルス遺伝子の構成要素とその違いに着眼し,感染指向性の規定因子を同定することに成功した.さらに,最新のレポーター技術をウイルス学研究に取り入れることで,診断から生体での感染動態を解析できるツールを開発した.本総説は,これらの成果を統合的にまとめ,ウイルスが宿主生物で感染を繰り返すうちに病原性と組織指向性がどのように獲得,変化するのかを考察するとともに,今後の感染症対策のための研究基盤としての可能性について展望を述べたい.
  • 渡辺 崇広
    2025 年75 巻1 号 p. 73-86
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/29
    ジャーナル フリー
    ヘルペスウイルスの一種であるEpstein-Barr ウイルス(EBV)は,成人の90%以上が既感染であり,生涯にわたり潜伏感染が維持される.リンパ腫や上咽頭癌,胃癌など多様ながんに関与するほか,近年では自己免疫疾患との関連性も注目されており,ウイルス・腫瘍・免疫をつなぐ横断的な研究モデルの位置づけにある.一方で,EBV研究は長くウイルス培養系や動物モデルの制約といった技術的課題があった.しかし,近年,BACを用いたウイルス全ゲノムクローニング技術やCRISPR/Cas9による遺伝子編集技術,ならびにヒト化マウスを含むin vivoモデルの進展とともに,EBV独自の生活環および腫瘍化機構の解明が進んでいる.本稿では,EBV遺伝子の機能解析の要である遺伝子組換えウイルス作製およびin vivoモデルの技術の進化を概観し,筆者らが取り組んできた腫瘍病原性解析について紹介する.
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