ウイルス
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総説
ネコモルビリウイルスの発見と現状について
古谷 哲也森川 茂宮沢 孝幸
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2016 年 66 巻 2 号 p. 147-154

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抄録

 ネコモルビリウイルス(feline morbillivirus : FeMV)は2012年に香港で初めて発見され,ネコの慢性腎不全(尿細管間質性腎炎)との関連が示唆された.FeMVはモルビリウイルス属に分類されているが,他のモルビリウイルスのグループから遺伝的に離れており,感染標的組織や病原性にも違いがある.FeMVは世界各地で検出されており,遺伝的多様性に富んでいる.その一方で,遺伝的に極めて近縁な株が遠く離れた場所でみつかっており,伝播経路については不明である.FeMV発見後の研究でも,疫学的にFeMVと腎疾患や下部尿路疾患との関係が示唆されているが,感染実験で疾病が再現されておらず,FeMVの病原性については不明な点も多い.FeMVの診断には,核酸検査と抗体検査が用いられているが,検査法は統一されておらず,感度や特異性についての検討もなされていない.FeMVの疫学調査や病態解明のためには,簡便で特異性が高い核酸検査法や抗体検査法の開発が望まれる.FeMVは慢性疾患を引き起こすモルビリウイルスとしてウイルス学的見地からも興味深いが,慢性腎疾患というネコにとってもっとも重要な疾病の一つに関わるため,獣医学的にも重要であり,今後の研究が期待される.

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© 2016 日本ウイルス学会
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