2016 年 66 巻 2 号 p. 171-178
環境中のDNA情報から微生物だけでなくマクロ生物の生態を読み解こうとする「環境DNA分析」と呼ばれる技術が急速に発展している.環境DNAとは水や土などの環境媒体に含まれるDNAの総称であり,生物体そのものに含まれるDNAや,糞や体表粘液などを介して放出されたマクロ生物の生体外DNAを含む.環境DNAの分析には大きく分けて,種特異的検出とメタバーコーディングの2種類の手法があり,目的によって使い分けられる.適用可能な対象は微生物から脊椎動物まで,遺伝子としてDNAをもつあらゆる生物(ここではウイルスを含む)であり,川や池などの陸水域だけでなく海域への適用も報告されている.本稿ではマクロ生物の環境DNA分析の現状を紹介するとともに,ウイルス学をはじめとする感染症の研究分野への応用可能性,およびそのために解決すべき課題について述べる.