抄録
ラット標準第II肢誘導心電図(心電図)における陽性T波の成因を,心臓直接誘導電位図の記録による心室の興奮伝播および再分極に関する知見から明らかにした。開胸,入工呼吸下のラットにおいて心室中隔,心内膜下および心外膜下の7ヵ所の部位から単極誘導電位図を同時記録した。得られた単極誘導電位図およびその微分波を用いて,それぞれlocal QT interval(局所興奮持続時間)および局所興奮到達時間に関する解析を行った。さらに,左心室心内膜下と心外膜下を結線した双極誘導電位図を記録し,その電位図で記録されたT波の形状に関しても検討した。
心室中隔(イニシャル)から心外膜下(ターミナル)までの興奮伝播時間は10msec以内と非常に短時間であったが,左心側の興奮伝播過程を明らかにすることができた。即ち,興奮は始めに心室中隔に起こり,ついで心内膜下に,最後に遊離壁心外膜下に伝播した。心外膜下のlocal QT intervalはそれに対応する部位の心膜下のlocal QT intervalに比べ,有意に短く(P<0.05),心外膜側は心内膜側に比べてより早期に再分極が起こることが示唆された。また,心内膜下と心外膜下を結線した双極誘導電位図において陽性T波が記録された。これら興奮伝播およびlocal QT intervalに関する成績は脱分極と再分極のtransmural gradientを示唆しており,ラットにおける心電図上の陽性T波の成因を理解する上で有益と思われた。