抄録
衛生環境が貧しい途上国都市では,洪水時に,住民が病原微生物に汚染された水に接する機会が増えるため,感染症のリスク上昇が懸念される。本研究では,ベトナム国フエ市を対象に,洪水時と平常時における主要な感染経路からの大腸菌感染症の発症リスクを定量的に評価した。平常時における年間リスクは,最大で0.026(38人に1人が発症)と見積もられた。特に,家や店で生野菜を摂取することによるリスク(0.024)が高かった。一方,洪水時には,洪水中での家具の移動や掃除,料理,水遊び等の不衛生な行為によりリスクが0.45にまで大幅に上昇した。年間でわずか6.5日に過ぎない洪水時のリスクが平常時の年間リスクの17倍に相当することから,インフラ整備による洪水制御には大きなリスク削減効果が期待できる。しかし即時のインフラ整備は難しいことから,上記のような洪水中での不衛生な行為を控えることがより現実的な対策と言える。