下水処理場の能動的管理による窒素供給増加とGHG排出量削減を目指して, 下水処理場機能評価システム (PES) を使用し, 処理能力74,400 m3 日-1の処理場を対象に電力自給率やCO2オフセット率で評価した。能動的管理では1月の窒素供給濃度が21.2 mg L-1で最も高かったが, 窒素供給濃度の増加は2.6 mg L-1に留まっていた。一方で, 硝化抑制運転による曝気風量の削減効果は大きく送風倍率は3.2倍と5割近くまで低下し, 使用電力量も2割近くの低減に繋がった。電力自給率では消化ガス発電の導入により電力自給率は54%と計算され, 能動的管理では58%へ4ポイント増加し, 窒素をバイオマスとして回収すると電力自給率は81%まで向上した。GHG排出量削減では消化ガス発電の導入ではCO2オフセット率は45%と計算され, 能動的管理を適用すると49%となり, 窒素をバイオマスとして回収すると55%まで上昇した。更なる施策の追加でCO2オフセット率は96%まで上昇することが期待され, 下水処理場のポテンシャルの高さが確認できた。
専用水道や公衆浴場等の現場ではブロモチモールブルー (BTB) やフェノールレッド (PR) による指示薬でpHが測定されることがあるが, 指示値が電極法と著しく乖離する例が確認された。本研究ではxy色空間を用いた定量的な方法で先行研究の乏しい遊離残留塩素のpH指示薬に対する影響について検討した。BTBとPRの指示値は遊離残留塩素の影響でそれぞれ酸性側, アルカリ性側へと偏り, BTBはおそらく試薬の酸化, PRは塩素化によるクロロフェノールレッドへの化学変化がその理由として考えられた。しかし指示薬は変化後も変色域内または近しい呈色のため誤った指示値が可読であることが電極法と値が乖離する原因であった。指示薬変化の対策として0.07 mol L-1チオ硫酸ナトリウムによる遊離残留塩素消去の有効性を実験室および現場で検討し, 添加量が検水容量の0.5%までであれば測定値への影響は認められないことがわかった。
本研究では, 大阪湾南部における水温・塩分の長期変動を明らかにするため, 1992~2023年の32年間にわたり収集された定置観測データを解析した。水温・塩分の季節変動, 長期トレンド, および気象要因との関連性を検討した結果, 春季の水温上昇が顕著であり, 特に水温15 ℃を超える時期が年々早期化していることが判明した。一方で, 年間最低・最高水温やその記録日には顕著な変化は見られなかった。また, 水温・塩分の短期的な変動は, 降水量などの気象要因の影響を強く受けるとともに, 紀淡海峡を通じた外海水の流入により顕著に変化することが示された。本研究の成果は, 大阪湾の海洋環境変動の理解を深めるとともに, 水産資源管理や養殖業への応用が期待される。
大阪湾表層水について, 粒状有機炭素 (POC) と溶存有機炭素 (DOC) の分解過程を最大100日間の生分解実験により調べ, POCとDOCの分解速度及び分解時間を求めた。POCは実験20日までに迅速に生分解されるのに対し, DOCは50日が経過しても多くが残存した。生分解実験中のPOCからDOCへの正味の移行は, ほとんどみられなかった。20 ℃におけるPOCの平均分解速度は0.12 day-1 (平均分解時間8.5 day) であった。塩分を用いて外海起源DOCを求め, DOCから外海起源DOCを除いたものを内部生産等DOC (海域及び陸域起源) とした。これに, 難分解性と準易分解性の2成分モデルを当てはめ, 準易分解性成分の分解速度を求めた。採水の場所及び時期 (季節) によらず, 内部生産等DOCのうち48%が難分解性であり, 残りの52%が平均分解速度0.031 day-1 (平均分解時間32 day) の準易分解性であった。
岩手県一関市に位置する吸川は, 郊外から市街地を流れる中小河川である。2000年にかけて製紙工場排水の流入による汚濁が顕著であり, 吸川下流のBOD75%値は50 mg L-1を超える年が多く見られた。2002年には製紙工場に排水処理施設が導入されたことにより, 吸川下流のBOD75%値は20 mg L-1程度に低下した。その間, 一関市により公共下水道への接続や合併浄化槽の導入の促進などの対策が進められた。その結果, 2018年の製紙工場閉鎖以降の吸川下流におけるBOD75%値は5 mg L-1を下回り, 値も安定した。現在では, 浄化槽普及率に課題が残り, 郊外でBOD平均値に若干の上昇は見られたが, 水域生態系への影響は小さいと思われた。市街地ではイベントが行われた際のBOD値の上昇や, 降雨時の面源負荷によるEC値の上昇が見られたが一時的なものであった。吸川流域の下水対策による水質改善により, 水域の自然再興が可能になったことが示唆された。
リンは食料生産に不可欠であるが, 日本ではリン資源の多くを海外からの輸入に頼っており, リン資源循環の確立が求められている。国内リン資源の一つである下水汚泥由来肥料は, リンの利用性が化学肥料より低く, 肥効の詳細は十分に解明されていない。本研究はコマツナ栽培実験により下水汚泥肥料のリン肥効を評価し, 植物のリン吸収量および土壌中の可給態リンを分析した。その結果, 下水汚泥肥料単体施用では肥効は認められたが, コマツナの生長は窒素制限を受けた。化学肥料との混合施肥により窒素条件を揃えた場合, 下水汚泥肥料のリン肥効が確認された。一方, 下水汚泥肥料は施肥基準量での施用の場合, 化学肥料より生長量が小さく, 下水汚泥由来リンの利用性が低いことが示唆された。ただし, 化学肥料は移動性が高く, 灌水により根圏外にリンが流亡しやすい。一方で, 下水汚泥肥料の施用により可給性の低い形態のリンが土壌中に蓄積する可能性が示された。
環境省は, 水環境リスクに関する知見の集積が必要な物質群として222項目の要調査項目を設定している。しかし, 各項目の分析法を確立し実施するための経済的負担が大きく, 存在状況調査は十分に進んでいない。本研究では存在状況調査の高効率化を目的として, ガスクロマトグラフィー/質量分析および液体クロマトグラフィー/質量分析を用いたターゲットスクリーニング分析法を構築した。標準試薬を用いた検討の結果, 両法のいずれかで計154物質が分析可能であった。4都県から隔月で6回採取した河川水試料を分析し, 各物質の濃度を毒性評価値と比較した。両法合計で計112物質が検出され, 水生生物およびヒト健康への影響が懸念される物質の候補として, それぞれ55物質, 6物質が抽出された。スクリーニング分析で検出された物質を個別分析することで, 要調査項目の存在状況調査を効率化することができる。
近年, 太陽光パネルを水上に設置する水上太陽光発電 (FPV) が増加しているが, 設置水域への水質影響は十分に解明されていない。本研究では, 農業用ため池におけるFPVの設置がアオコに与える影響を実際の発電所の水質調査で評価した。FPVが設置された国内8カ所の池の夏季の表層クロロフィルa濃度は, FPV被覆率と弱い負の相関がみられた (r = −0.38) 。アオコが確認された白井沼貯水池では, FPV被覆域で光合成起源の酸素発生が約1/10に低下する一方, 表層クロロフィルa濃度は開放水面より高いことが確認された。これは遮光による光合成・増殖の抑制と, 水温差と風の遮蔽により表層の懸濁物がFPV被覆域に集まる結果と推察される。pH・DOの日周変動は日射と水の回転率により規定され, 地点差は小さかった。以上より, 日本のため池へのFPV設置は局所的水質変化を招くことなく, アオコ抑制に寄与する可能性が示唆された。
下水汚泥由来肥料であるリン酸マグネシウムアンモニウム (MAP) および汚泥コンポストをアマモ育苗に適用し, 生育効果と栄養塩溶出特性を比較評価した。底質400 mL当たりMAP1000 mgまたはコンポスト2000 mgを施肥し100日間培養した。100日目の発芽率は無施肥系22%に対し, MAP20%, コンポスト30%であった。平均草丈は無施肥系43 mmに対し, MAP施肥系64 mm, コンポスト施肥系60 mmと有意に増加した。MAP施肥では間隙水中NH4+-Nが高濃度で維持され海水中最大6.6 mg-N L-1に達したが, リン溶出は黒ボク土混合により抑制された。一方, コンポストはリン溶出が少なく水質影響は比較的小さかった。以上より, 両資材の特性を踏まえた施肥方法はブルーカーボン生態系再生に資する可能性が示唆された。
山陰地方の三瓶ダムにおいて, 2017~2024年の8年間にわたる電気伝導度 (EC) および気象データを用いて, 降水パターンとEC変動の関係を定量化した。季節的基底変動を除去するため無次元EC (EC*) を導入し, 276件の降雨イベントのうち252件について, EC*低下量およびタイムラグを算出した。総降水量を10 mm間隔に細区分した閾値探索の結果, 30 mmと60 mmを境にEC低下量とタイムラグの応答特性が段階的に変化することが統計的に示された。30~60 mmにおいては, 2~3日の持続的な降雨が1日降雨と比較してEC低下量が約3倍大きくなることが示された。ランダムフォレスト解析でも5~6日累積降水量が最重要変数として抽出され, 統計解析と独立した手法から同様の結論が得られた。これらの知見は, 直近5~6日間の累積降水量を実務指標として活用した貯水池水質モニタリングの強化に資するものである。
河川の富栄養化対策において, 流域由来負荷 (生活排水・工業排水・農地等に由来する成分) と大気沈着由来負荷の分離は重要であるが, 大気から沈着し長期間流域に蓄積されたレガシー成分までを完全に分離推定することは困難である。そこで本研究では, 全寄与の分離を目的とせず, 公開されている長期観測データのみを用い, 大気質の改善に対して即応的に低減可能な河川窒素負荷 (改善余力) を推定するトップダウン型の簡易統計モデルを提案した。本モデルは, 水質安定時におけるTNと全リン (TP) の強い相関に着目し, TPを伴わない窒素成分 (切片項) のうち, 大気中NOx濃度からの短期的な遅れ (0-2か月) に追従する成分を抽出するものである。その際, 大気由来の寄与が物理的に負にならないよう非負制約を課している。相模川水系桂川に適用した結果, 大気中の窒素酸化物が完全に排除されたと仮定した場合, 非降雨の水質安定時における河川窒素負荷量の2021年時点での最大改善余力は約9%と推定された。この結果は, 2021年時点の対象流域において依然として排水等の流域対策が支配的な効果を持つことを示唆している。本手法は, 追加調査なしに既存データのみで大気対策による改善余力を概算でき, 大気・水質対策の優先順位付けに向けた迅速な診断を可能にする。
有明海の冬季水質連続データを用い, 赤潮発生予兆を時系列統計解析により検討した。クロロフィルa (CHL) に分散変化点検出を適用した結果, 平常期・遷移期・発散期の3区間に区分された。相関・偏相関解析から, 遷移期には水深・塩分との関係符号が反転して, 潮汐と淡水流入の変化に起因する水質・生態系の相変化が示唆された。pHを因果要因ではなく予兆指標とみなし, pH平均値と分散を特徴量, CHL ≧ 10 μg L-1を赤潮状態とする二値目的変数によるロジスティック回帰モデルを構築した。その結果, AUC = 0.979, 感度0.960, 特異度0.917, 全体正解率0.932と高い識別性能を示した。また, CHL分散の変化点以降の遷移期に赤潮発生確率が段階的に上昇し, 発散期移行のおよそ2~5日前にピーク値が検出された。以上より, 変化点解析とpH時系列特徴量に基づく統計モデルは, 赤潮拡大の数日前に実務上有用な早期警戒情報を提供し得る可能性が示された。