近畿圏水域の大腸菌群数と大腸菌数の測定からふん便汚染の確認および特性について検討した。AA類型の琵琶湖は大腸菌群を用いた旧基準で多くの地点が超過したが, 大腸菌を用いた新基準では基準値より低かった。河川の類型別では旧基準と新基準に正の相関がみられたが, A類型河川の大腸菌数は他と比べ広く分布していた。さらに, 桂川の宮前橋地点の詳細調査から, 下水処理場放流水中の大腸菌が水質に影響することが示唆された。大腸菌は, 20, 30 ℃の水温下では2~3日以降生残率が顕著に低下するが, 5 ℃では3日目も73~85%が生存し, 低水温時は上流の大腸菌負荷が下流の大腸菌濃度に影響を及ぼす恐れがあることを確認した。汚濁源から下流への到達時における大腸菌濃度の予測を試算した結果, 予測値と実測値はよく一致していた。したがって, 平常時の河川流況や気象条件によって, 汚濁源から離れた場所でも影響を受けることが明らかとなった。
大阪府を流れる平野川では, 合流式下水道越流水 (CSO) が水質汚濁の一因とされている。本研究では, CSO放流時の河川水中の微生物叢を調査した。2023年夏に採取した平野市町抽水場付近の表層水中の16S rRNA遺伝子を次世代シーケンサーによって解析し, 正準相関解析によって水質と関連付けた。CSOの影響が少ない試料では, Flavobacterium属, Acinetobacter属, Limnohabitans属, Flectobacillus属, Cloacibacterium属が優占し, 偏性好気性のLeadbetterella属, Rheinheimera属, Vogesella属の存在によって特徴づけられた。CSOの放流によってSSとCODの濃度が高い試料では, 嫌気性のArcobacter属, Bacteroides属, Tolumonas属, Acidovorax属, Prevotella属が優占し, Firmucutes門の細菌群 (Streptococcus属, Faecalibacterium属, Ruminococcus属など) も増加した。
日本の年平均気温は, 2000年から2010年代前半は緩やかな低下傾向であったが, 2014年の冷夏を境に, 変動を伴いながら急激な上昇となっている。この気温上昇が, 大阪湾の水温に与える影響を, 2010年4月から2024年3月の期間で調べた。冬季 (1月~3月平均) は, 水温は気温と連動して上昇しており, 明石海峡の年最低水温は10年当たり約1.59 ℃上昇した。このため, 日平均水温が10 ℃以下となる日数は, 2011年の84日から減少し, 2023年以降は0日であった。一方, 夏季 (7月~9月平均) は, 気温, 表層水温ともに有意な上昇がみられなかった。表層水温は, 大阪湾底層に紀伊水道の底層から流入する冷水の影響と, 気温の影響を受けて変動していた。このため, 暑夏であっても, 底層への冷水流入があると, 表層水温は上昇しなかった。下層水温の季節変動には, 冷水流入の有無が大きく影響していた。
本研究は, 農業集落排水施設に広く採用されている回分式活性汚泥法の処理水について, 「処理水の灌漑プロジェクトに対するISOガイドライン」の水質レベルを達成するために必要な運転管理方法を検討した。処理水のBOD濃度には, 回分槽の有機物の酸化分解や窒素化合物の硝化促進とともに活性汚泥の流出制御を通じた運転管理が重要であり, 処理水のBOD濃度とSS濃度は回分槽のDO濃度を2~3 mg L-1で管理し, SVIを100 mL g-1以下に維持することで水質が最も良好なカテゴリーAを達成できる可能性が高いことが分かった。処理水の大腸菌群数には, 消毒槽の残留塩素濃度と水理学的滞留時間, 処理水のSS濃度と水温が影響し, CT値 (消毒槽の残留塩素濃度に水理学的滞留時間を乗じた値) を2.8 mg min L-1以上に確保することでカテゴリーAの水質レベルを達成できる可能性が高く, 処理水のSS濃度水準を下げることは大腸菌群に対する不活性化効果を高める観点からも重要であると考えられた。
水質管理施策を検討する際には, 低次生態系モデルを用いた水質への影響予測が行われる。低次生態系モデルを構成する植物プランクトンの増殖および栄養塩摂取式は, 既往研究により様々提案されているが, 貧栄養環境における植物プランクトンの応答について, 式ごとの計算結果の差異は明らかにされていない。本研究では閉鎖系の1ボックス低次生態系モデルを構築し, 異なる増殖・摂取式を用いることによる貧栄養環境での植物プランクトンの変動の差異を比較した。植物プランクトンのバイオマスは, 細胞組成比であるN/C比およびP/C比を固定しないモデルで固定するモデルに比べて大きくなった。これは, 固定しないモデルでは周囲水の栄養塩濃度の低下に応じて細胞組成比が低下し, 増殖に必要となる栄養塩量が減少することが原因であった。周囲水の栄養塩濃度は, 細胞内栄養塩量を考慮したモデルで低下がみられ, 貧栄養環境を表現しやすいと考えられた。
不法投棄された家電製品から溶出する各種金属元素の最大リスクを評価する手法を検討するために, 銅, 鉛, 亜鉛, アンチモンのペレット試料および廃PC部品 (プリント基板, ブラウン管ガラス, 液晶パネル) の破砕物試料を溶出液に60日間浸漬し, 各種元素の溶出量と溶出挙動を測定した。ペレットあるいは廃PC破砕物試料のいずれの場合も金属の溶出量は長時間にわたって増加したことから, 振盪溶出時間を6時間に設定した告示13号溶出試験は不法投棄廃棄物の最大リスクの推定のような長期間溶出挙動の評価には適用が難しいと考えられた。60日間の浸漬による溶出速度は高速攪拌装置による長期間振盪溶出の結果と比較して遅くなるものもあったが, 溶出最大値は大きな差はなく, 連続振盪を伴わない静置浸漬による試験法は有効と考えられた。さらに, 時間と溶出量の関係はいくつかのパターンに分類できることが分かった。
広島県尾道市浦崎町に位置する人工干潟で施肥材を使ったアサリ育成試験を行った。数値シミュレーションモデルを構築し, 水と泥を含む物質循環を計算したところ, フィールド試験で得られたデータを良く再現できた。アサリの餌となる底生微細藻の増殖制限因子は, 秋はリン, 冬は水温と日射量, 春~夏は窒素と, 季節で移り変わることが分かった。また, アサリの餌要求量からみた成長抑制は春になって顕著に起こることが明らかとなった。このことから, 施肥のタイミングは春の成長期の前から行うと良い。施肥材を多く使用すると, 個体が大型化し, 販売単価が上がり費用対効果が良くなることが示された。ただし, 底泥中での硫化水素の発生リスクを低減することを考えると, 2/5個 m-2程度 (施肥材間の距離2 m程度) の施肥量が良いと結論できた。
本研究は, フライアッシュを大型藻類のための藻礁として活用するうえでの有用性を検討するため, 貝殻含有石炭灰固化体 (FSB) が海水のpHと栄養塩濃度 (SiO2, PO4, NH4, NO2, NO3) に与える影響を評価した。セメントペースト (OPC) , FSB, FSBに高炉スラグ微粉末を配合したFSBsを海水にそれぞれ固液比1 : 10で7日間浸漬した。元の海水のpHが約8.0だったのに対し, OPC区ではpHは約9.9まで上昇し, SiO2が溶出した。FSB区とFSBs区ではpHは8.2~8.5まで上昇し, 全ての栄養塩が溶出した。FSB区とFSBs区の栄養塩溶出はフライアッシュが要因と推察され, 固化体に着生した藻類に正の影響を与えることが示唆された。FSBとFSBsはpHへの影響の小ささと栄養塩溶出の点から, OPCよりも藻礁として有用である可能性が示された。
雨水流出に伴う粒子挙動を理解するためには, マイクロプラスチックを含む様々な環境中粒子の物理的特性の把握が求められる。本研究では, 道路塵埃及び雨水桝内堆積物中の全粒子に対し, 異なる密度の溶液を用いた粒子密度の推定, 画像解析による形状特性値の算定, ATR-FTIRによる材質組成の同定分析を行い, 個数ベースの粒子特性データを取得した。いずれの試料も90%以上の粒子が密度1.6 g cm-3以上の高密度な画分に分布した。形状特性では, 雨水桝内堆積物では道路塵埃よりも小さな粒子が多く分布し, 微細な粒子同士が固着した団粒状粒子も多く存在したものと考えられた。材質組成では, 全粒子の約40~50%がSynthetic polymerとして同定され, Synthetic polymer粒子は密度1.6 g cm-3以上かつ, Feret径500~800 μmの画分に多く分布した。
大阪市内中心部に位置する第二寝屋川においてマイクロプラスチックを採取し, 個数密度とポリマー種や形状, 色といった特徴を調査した。調査は「河川・湖沼マイクロプラスチック調査ガイドライン」に準じておこなった。マイクロプラスチックの採取は自然通水法および河川が低流速時には曳網法 (独自法) でおこない, 試料の分析はガイドラインに準じておこなった。自然通水法と曳網法による結果 (サイズ:1~5 mm) を比較した結果, 前者は41.0 個 m-3, 後者は9.68 個 m-3となった。曳網法による採取は定量的な観点では自然通水法と同程度のマイクロプラスチック個数密度が得られるかという点で疑義が残るが, 定性的な観点では調査対象河川に存在するマイクロプラスチックの特徴を自然通水法と同程度に捉えることができると考えられた。
千葉県北部に位置する印旛沼は, 流入負荷量に占める面源系の寄与率がCODMn約8割, T-N約7割, T-P約4割と大きい。湖沼水質保全計画では, 原単位を用いた一律の算定手法による面源系負荷の算定が行われているが, 降水量, 降水パターンによって負荷量は大きく変わる可能性がある。本研究では, 面源系負荷に占める割合の大きい市街地の主要構成要素である道路排水に着目し, 千葉県における降水量とCODMn, 窒素, リンの負荷量の関係について調査を行った。自動採水器を用いた22回の降雨時調査及び, そのうち道路排水の流出開始から流出停止まですべてを採水できた10回の降雨時結果から, 総降水量とCODMn, T-N, NO3-N, T-P, PO4-Pの1降雨負荷量の間の関係式が得られた。得られた関係式により, 降水量に応じた算定が可能となり, 千葉県の市街地原単位におけるCODMnが過少評価されている可能性が示唆された。
連続流れ分析法 (CFA法) による自動酸分解装置を用いて, 誘導結合プラズマ質量分析法 (以下, ICP-MS) によるHgを含む金属12元素 (B, Al, Cr, Fe, Mn, Cu, Zn, As, Se, Cd, Hg, Pb) の自動化条件の最適化と, Hgの添加回収試験における添加剤の効果について検討を行った。HNO3溶液中, 添加剤としてHCl, Na含有試薬および種々の酸化剤をHgの添加回収試験より評価したところ, HClおよびHCl+NaClOの組み合わせが最適であることがわかった。得られた結果を元に, 環境水に対し金属12項目の添加回収試験を行ったところ, NaClOを用いることで, Hgの回収率が70%以下の試料において100%に改善することができた。本法は, Hg測定時の妨害となる還元性物質が含まれていてもHgを高精度に測定でき, かつHgを含む金属一斉分析の前処理操作からICP-MS測定までの自動化が可能である。
陸域の水環境におけるマイクロプラスチックのリスク管理には, 発生源ごとに発生量と流入特性を把握する必要がある。水田では, 被覆性肥料カプセル (直径2~5 mm) を含む肥料の散布がマイクロプラスチックの供給源となり得る。本研究では, 一筆水田排水口から流出する被覆性肥料カプセルの流出量と流出特性を2年間, 6圃場で調査した。通年調査を実施した2圃場では, 入水から移植までの間に年間流出量の90%以上が流出した。4圃場における代かき移植時の流出量は70~520 x 103 個 ha-1 (平均243 x 103 個 ha-1) , 重量ベースで0.17 kg~1.29 kg ha-1 (平均0.61 kg ha-1) , 前年散布量に対する流出率は0.9~6.7%で, 流出は人為的な落水や降雨による越流などに起因したと考えられた。6圃場のうち水管理の不十分な1圃場では, 移植時以降の流出量が代かき移植時の流出量に相当する可能性のあることが示された。
宍道湖では藍藻のMicrocystis属によるアオコが確認されてきた。本研究ではMicrocystis属の保存検体を利用し, 細胞径と細胞間距離を計測した。細胞径には差が認められM. ichthyoblabeは3.3~4.0 μmであるが, M. aeruginosaは4.5~4.9 μmとM. ichthyoblabeよりやや大きいことが明らかになった。また細胞間距離は, M. aeruginosaはいずれも平均1.1~2.8 μmと比較的密な状態であるが, M. ichthyoblabeは平均0.9~5.7 μmと差が見られ, 密な場合と比較的疎な場合があることが分かった。アオコ発生時の宍道湖上層の水質状況は, 発生確認前2ヶ月間の平均塩化物イオン濃度は2,000 mg L-1を下回る場合が多く, PO4-P濃度はアオコが発生しなかった年に比べて, アオコが発生した年に高い傾向があることが明らかになった。
藻場の保全・再生活動によるCO2吸収量を増大させるためには, 過去から現在にかけての海藻の生育状況等に関する情報に基づき, 藻場の生育に適する場所を選定することが重要である。本研究では, 活動場所の選定や活動によるCO2吸収量の目標値の設定に寄与することを目的として, 日本の岩礁性藻場を対象に, 藻場の衰退・消失が顕著となり始めた1990年代以前の調査事例に基づき, 海域・地点を選定し, CO2吸収ポテンシャル (トンCO2 ha-1 yr-1) を推算した。調査地点として選定した全国68地点のCO2吸収ポテンシャルの範囲は0.02~18.0であった。吸収ポテンシャルを海域別・藻場タイプ別に比較すると, ガラモ場は日本海北部沿岸域, 瀬戸内海域, アラメ・カジメ場は東シナ海沿岸域, 四国太平洋沿岸域, コンブ場は東北太平洋沿岸域で大きい傾向が認められた。
公園池は親水の場として利用されるが, 富栄養化に伴う悪臭や景観悪化が課題である。しかし, 水質保全を考慮した植樹計画や落葉管理に必要となる落葉が水質に及ぼす影響に関する定量的評価は少ない。本研究では, 2023年に公園池 (福島県白河市南湖) を対象に, 現地調査と室内実験で落葉由来の負荷量を推定した。1年間で水面から南湖に入る落葉由来の全負荷量はT-Nで9.51 kgN, T-Pで0.480 kgP, 河川から南湖に入る落葉由来の全負荷量はT-Nで0.35 kgN, T-Pで0.022 kgPと推定された。また, 落葉, 落葉以外の流入水, 底泥からの溶出に由来する負荷量の和を合計負荷量とし, その合計負荷量に占める落葉由来の割合を算出した結果, 1年間ではT-Nで0.1%, T-Pで0.7%, 落葉時季ではT-Nで0.1%, T-Pで2.6%であった。従って, 落葉が南湖全体の水質に及ぼす影響は限定的と考えられる。
全国の河川の環境基準点で収集された2013-2022年度の水質常時監視データを解析し, 生活環境の保全に関する環境基準が設定されている8つの水質項目について, 採水実施曜日・時間帯の特徴および各水質項目の曜日・時間帯特異的な変動を評価した。採水を実施する曜日は, 全国的に, 週央, 特に水曜日に大きく偏っていた。また, 採水を実施する時間帯のピークは, 午前10-11時頃と午後1-2時頃の二峰型を示し, 特に午前により多くの実施が偏っていた。各水質項目に明確な曜日特異的変動はみられなかったものの, pH, BOD, SS, DO, および全亜鉛において, 多くの曜日で午前よりも午後に僅かに高い値が観測される傾向がみられた。水質環境基準の達成を目的とした排水基準の設定・強化を議論する際には, 以上のような採水実施時間帯の特徴と水質の時間帯特異的な変動による基準値超過状況の評価の偏りを踏まえる必要がある。