抄録
瀬戸内海の底質環境の変遷を調べるため,播磨灘,大阪湾,周防灘において堆積物コアを採取し,137Cs法による堆積年代の推定とδ13Cとδ15Nの鉛直分布,および貝形虫·有孔虫群集の種数や個体数等との関係について解析した。播磨灘と大阪湾ではδ13Cの微増とδ15Nの増加,および貝形虫群集の貧酸素耐性種の優占率の増加から,1950年代以降には表層域の植物プランクトンの増殖または底層域での貧酸素水塊の発生が推察された。周防灘のδ13C-δ15N図は非常に狭い範囲に分布し,貝形虫群集の種数は著しく多く多様性に富んでいることから,今日まで底層域に貧酸素水塊は一部の海域を除いて発生していないことが示唆された。本研究の手法は,瀬戸内海の底層域における貧酸素水塊の発生と底生生物に対する影響を明らかにし,瀬戸内海の各海域の富栄養化による汚染の歴史を解明する上で有効な手段であることを示した。