2004 年 58 巻 4 号 p. 500-507
従来,製紙用薬品(サイズ剤,紙力増強剤)の性能の発現は,紙中にどれだけの薬品が何%含有されているかと言う“量”の影響が大きいと考えられてきたため,性能評価の一環としては,“量”の評価が行なわれ,実際に定着している“形”については,深い検討はなされていなかった。これは,従来の分析技術では,パルプの微細な構造の観察,パルプ上での薬品の形態や分布について,自然な状態で知る事が容易ではなかったという事情もあった。
近年の分析技術の発達により,紙・パルプ繊維の表面について,詳細な分析が容易に行なえるようになり,特にSPM(走査型プローブ顕微鏡)によりミクロフィブリル上の薬品の詳細な観察などの分析が可能に成ってきた。
本報では,新規に導入したESEM(環境制御型電子顕微鏡)により紙のin―situ観察を行った。その結果,パルプ繊維中におけるサイズ剤や,紙中における紙力増強剤の分布状態について新たな知見が得られたので検討結果を報告する。
内添サイズ剤は,パルプ繊維表面に分布するものとパルプ繊維内部に分布するものとに分けられることが分った。紙力増強剤は,紙の内部に存在するパルプ繊維間強度を強化している可能性があることが分かった。