本稿では,弊社が提供する「連携最適化ソリューション(CPO)」の概要と,板紙プロセスにおける実際の改善事例について紹介する。
紙パルプの製造工程は複数の連続するプロセスで構成された複雑なプラントであり,効率的な改善には工程ごとの部分最適ではなく,部門を超えた視点での最適化が必要である。そのためには膨大なデータの解析を行い,工程間の干渉も考慮した改善策を見出す必要がある。
CPOは,経験豊富な制御コンサルタントが現場調査とデータ解析を行い,シミュレーション技術を駆使して改善テーマの発見から実施まで包括的にサポートするサービスである。その基本フローは,現場調査・オペレータヒアリングから始まり,プラントデータの収集と解析,改善策の提案,シミュレーションによる事前の効果確認を経て,改善実施に進むというものである。事前シミュレーションでは改善効果を数値で示すことで,お客様の投資判断を助ける。
本サービスによって次のような改善効果が得られる。
・銘柄変更の所要時間を削減
・プロセス変動を抑制して品質を安定化
・自動制御の範囲拡大と使用率向上
事例として,レンゴー株式会社様金津工場での板紙プロセスにおける取り組みを紹介する。データ解析に基づき提案された改善の実施により,製品品質向上,蒸気使用量削減,そして銘柄変更の損紙時間を平均36%短縮することができた。これらにより年間数千万円の利益が継続的に得られており,また自動化による省力化と操業安定化も実現した。
CPOは製紙工場の最適化と自動化に大きく貢献するソリューションであり,省エネ・省ロスの観点に加え,作業量削減や属人化からの脱却といった課題解決にも効果的である。
近年,世界規模でSDGsへの取組が本格化しており,製紙会社では環境対策の一環として節水を推進している。クローズド化による節水を進めるなかで,原料パルプおよび古紙由来の無機物・有機物をはじめ,澱粉,サイズ剤,ラテックス等の添加剤を由来とする有機物主体の汚れが発生しやすくなっている。その汚れ内部で繁殖する微生物によって生成されるスライムを原因とするデポジット汚れが製品品質の悪化を引き起すことで,定期修繕を増加せざるを得ず,生産性低下がおきている。これらを解決するために当社はアクアスクリンジェットⓇシステムを開発した。
アクアスクリンジェットⓇシステムは,当社独自の専用エダクターを利用した特許登録技術である。薬品処理のみでは無く,薬品と注入設備を併用することにより,薬剤を均一に拡散させ,様々な汚れの温床であるピット内堆積物を軽減させることが可能となる。このことによりクローズド化による節水が進む中で発生する紙切れ,欠点,BOD負荷,臭気,清掃作業等が削減されるとともに,薬剤処理費用の削減も実現している。本稿では,アクアスクリンジェットⓇシステムを利用した操業改善対策を紹介する。
日本製紙株式会社足利工場は首都圏から北へ約70 km,栃木県宇都宮市から西南に直線で約50 kmの足利市に位置している。
足利工場の構内は市道や河川が横断しており,更に住宅や農地が工場敷地に隣接し,周辺環境には十分配慮が求められる環境である。
総合排水は渡良瀬川支流の旧袋川へ放流しており管理指標はpH,BOD,SSである。排水基準は栃木県の上乗せ排水基準に順じているが,2021年3月末に暫定基準が終了した。
BOD,SSについて従来,日間平均60 mg/ℓ,最大90 mg/ℓであった。改正後はBODは日間平均20 mg/ℓ,最大25 mg/ℓ,SSは日間平均40 mg/ℓ,最大50 mg/ℓとなり大幅な水質改善が求められた。そこで工場では2016年より排水処理工程の設備増強に加えて上流工程からの対策として製造工程の排水負荷低減対策を進めた。
本稿では実施した水質改善の取組み事例の中より,製造工程と排水工程へ導入したアクアスクリンジェットⓇシステム導入による操業経験について紹介する。
2050年までのカーボンニュートラルな日本にするために,産業界全体への生産プロセスの改善・転換のプレッシャーが年々強くなっています。また日本,そして素材産業ならではの問題として,人口の減少,魅力的なIT産業への人材流出により,素材産業は優秀な労働力を確保することが難しい状況にあります。一方で,「紙」は人に,そして環境に優しい最良の材料であり,近年の脱プラスチックの流れと新素材への期待から,今後多くの可能性を秘めた材料でもあります。ABBはお客様の課題に対し,複数のアプローチからなる包括的なソリューションを提供しています。
本稿では「③簡単な操作,かつ高精度な単体試験機」の中でも,段ボール原紙の強度試験に使用される代表的な試験方法について,その特徴について記載します。ライナでは広く一般的に使用されているリングクラッシュ法についてその限界を説明するとともに,リングクラッシュ法の弱点を克服したショートスパン法について説明します。また中しん原紙については,日本ではあまりなじみのないCMT法(平面圧縮強度の計測)を簡素化し,かつ迅速・正確に計測が可能となったS test法について記載する。S test法は2024年6月にISOが制定した新たな中しん圧縮強度試験であり,今後国内でも活用が期待される。
昨今,高品質や高性能が求められている中でコーティング工程はこれらに関わる重要な工程の一つである。コーティング工程を最適化するにあたりコーティングカラーの粘度管理=レオロジー管理が必要であり,TAPPIにも規格が承認された。つまり世界規模で見ると既にレオロジー管理の重要性が認知されており,各社が動き出しているのである。それにも関わらず,日本国内ではレオロジー管理を行なっている実例はほぼない。なぜならコーティングカラーはせん断速度によって粘度が変化するにも関わらず,実際の工程と同様のせん断速度で測定する方法が存在しなかったからである。ACA Systems社(フィンランド)は従来では測定できなかったせん断速度を測定することができ,TAPPIの試験規格に準拠した装置であるAX-100という粘度計を開発した。現在よりも要求が高くなることが想定される未来にこの装置を用いたレオロジー管理が標準になると考えられる。
シキボウが販売している化学的中和反応による消臭加工繊維はアルカリ性臭から酸性臭さらには加齢臭にも高い効果を示す消臭加工繊維として業界で幅広く認知されている。しかし消臭加工では糞便臭のような強烈な臭気を弱めることができても100%消すことはできない。そこで発想を転換し糞便臭を消すのではなく利用して良い香りに変化させる香料「デオマジック」を開発した。畜産現場用に食品添加物の香料を調合した「デオマジック(ナッツの香り)」は微生物が繁殖して発生する強烈な臭気に対して幅広く効果を示すことから全国の畜産現場や産業廃棄物処理場や工場の廃水処理汚泥などの臭気対策として使用されている。製紙工場で発生する臭気対策としても使用されており,最近ではバイオマス発電の燃料で使用されているPKS(パーム椰子殻)の臭気対策としての使用も増えている。