紙パ技協誌
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研究報文
高濃度ポリサルファイドを用いた新蒸解システムの開発(第3報)
―広葉樹材ポリサルファイド蒸解におけるアントラキノン添加の効果―
渡部 啓吾南里 泰徳岡本 康弘清水 正裕大井 洋
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キーワード: F2KP蒸解, W1蒸解薬品
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2012 年 66 巻 5 号 p. 536-541

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抄録

ポリサルファイド(PS)蒸解とアントラキノン(AQ)添加は現在よく知られている有益なパルプ収率向上技術である。また両者を併用した際に相乗的な効果が得られることが知られている。しかし,PSは白液中のNa2Sを酸化することによって生成するため,PS生成を進めると蒸解液中のNa2S濃度が低下する。このNa2S濃度の低下によって,PS蒸解時にパルプのカッパー価や粕率が上昇することがある。
これらPS蒸解の課題を解決するために,PS濃度,Na2S濃度を変化させてAQ添加の効果を評価した。その結果,同一活性アルカリ添加率で比較した場合,AQ添加は主にパルプ収率を低下させることなくカッパー価を低下させ,またPS濃度の増加はわずかなカッパー価上昇を伴なって大幅にパルプ収率を向上させることがわかった。このことから,同一活性アルカリ(AA)添加率におけるPSのパルプ収率向上効果とAQのカッパー価低減効果が足し合わさる結果,同一カッパー価でのパルプ収率が向上していることがわかった。
また,多変量分散分析法を用いて,いわゆるPSとAQの相乗的効果の詳細を統計的に解析した。その結果PSとAQの間に交互作用(相乗効果)は認められなかった。PSとAQの相乗効果は,PS蒸解時のNa2S濃度の不足に起因するカッパー価や粕率の上昇をAQが補うということにより説明されると考えられる。したがって,AQ添加は,パルプ収率を向上させる高濃度PS蒸解に対して特に効果的であるということができる。
∗第1報:Japan Tappi Journal,62(12):1557―1569(2008)
第2報:Japan Tappi Journal,64(2):159―169(2010)

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