抄録
製紙用薬品は,操業性などを高める工程薬品(Process Chemical)と機能性を付与する機能性薬品(Functional Chemical)に大別される。
工程薬品は勿論のこと,機能性薬品についても抄紙(ウェットエンド)環境とは密接不可分の関係にあり,抄紙(ウェットエンド)環境の変化に合わせて機能性薬品も変遷している。
ウェットエンドとは,ヘッドボックスからドライヤーパートに入る前までの湿紙の状態にある工程であり,パルプ化,叩解や洗浄・脱墨工程を経た完成原料の影響を大きく受ける。ウェットエンドでは強度,サイズ度,白色度・不透明度の光学特性や地合いといった機能や品質を紙へ付与すると共に,濾水性や歩留りなど抄紙工程の安定化・最適化を行うため,種々の製紙用薬品が添加されている。
ウェットエンドでの製紙用薬品の効果に影響を及ぼす因子として,pH,温度,電気伝導度,パルプの表面電荷密度(ゼータ電位),微細繊維やDCS(Dissolved and Colloidal Substances,溶存懸濁物質)の電荷量(イオン要求量)などがあり,それらの変化と製紙用薬品の効果に与える影響を正しく理解する必要がある。近年は,ウェットエンドの状態は益々悪化し,製紙用薬品のパルプ繊維への定着や機能発現が阻害されやすい状況となっている。
本講演ではウェットエンドで使用する機能性薬品の代表格である紙力増強剤やサイズ剤に焦点を当て,これまでの技術的変遷と共に最近の技術的動向を紹介する。