2020 年 74 巻 4 号 p. 365-371
一つの事象の経年変化を,年単位の絶対値より,対前年の変化率に着目した方が理解しやすい場合がある。その視点で,1800年以降の産業化社会の技術変遷を概観してみる。
日本経済の年成長率は,1975年と1990年に変曲点があり,特に,1990年以降はGDPの年率増がほぼ零パーセント,紙パ産業はマイナス1%に落ち込んでいる。この要因を考察するのが本シリーズの目的でもあり,その一つが以下の産業技術の行き詰まりと考えている。
抄紙機は,1800年代初期に基本形態が生まれて以来,大型化と高速化を追いかけてきた。それらを年増加率で見てみると,抄速は1990年まで年率2.9%で増加し,以後停滞している。抄紙機幅は,1950年まで年率1.5%で増加し,以後年率0.4%と低下する。その他の技術開発でも(たとえが鉄鋼の高炉の容積)1900年代の後半に年増加率が停滞している。1800年の産業革命以来,鉄をベースとする製造技術の大型化,高速化が,素材の物性からくる限界に達し,停滞しだしたと理解する。1950年頃より半導体技術が開発されたが,それは鉄の性能を限界まで引き出すものであったが,新しい素材を生み出すものではなかった。それは,代わりに,情報化革命とされる新しい技術を生み出した。これについては次号で考察する。