2020 年 74 巻 9 号 p. 879-883
抄紙機のワイヤーパートで使用される各種ワイヤーロール(ワイヤーロール,ブレストロール,ターニングロール等)には従来からゴムカバー材が採用されており,最近ではセラミックス溶射の採用も進んできた。ゴムカバーロールの場合プラスチックワイヤー(以下ワイヤー)との摩擦により1~2年で偏摩耗が発生する。偏摩耗は相手ワイヤーの寿命に悪影響を及ぼし,抄紙現場では早期のワイヤー交換を余儀なくされている。対策としてセラミックス溶射の採用が20年以上前から進んできたが,セラミックス溶射皮膜は一定の効果を発揮してきたものの摩擦係数が低くワイヤーとスリップが発生し易いため,ワイヤー寿命に最も影響の大きいドライブロールへ採用ができず延命効果に限界があった。当社は約15年前から高摩擦係数・高耐久性セラミックス溶射皮膜TS-03112μの開発に着手し,ワイヤーメーカー殿の協力のもと様々な性能評価試験を経て,2005年オントップベルボンドフォーマーのドライブロールへ1号機を納入した。結果としてスリップ発生率は従来のドライブロール用ゴムロールと同等以上であることが確認された。以降TS-03112μはドライブロールを中心として採用が進み,その表面性能の高さから一般のワイヤーロール,ブレストロールへも展開され多くのワイヤーの延命化に寄与した。TS-03112μを採用された客先からはワイヤー寿命が1.5倍~2倍に達しているとの報告が多数寄せられている。TS-03112μは高価なプラスチックワイヤーに関わる経費削減に大きく寄与するとともに抄紙現場におけるワイヤー交換等の煩雑な作業の軽減に寄与している。