紙パ技協誌
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研究報文
ソーダ・アントラキノン蒸解スギパルプより酵素処理と湿式解砕で調製したセルロースナノファイバーの安全性評価試験
下川 知子眞柄 謙吾野尻 昌信林 徳子
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2021 年 75 巻 8 号 p. 757-764

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抄録

近年,製造時における取り扱いを含めて,身の回りの物質に対する安全性の確認を求める声が強くなっており,たとえ天然物由来の素材であってもその物質の安全性に対する科学的検証の重要度が増している。森林総合研究所では,大量生産のCNFに加えて用途に特化させたCNFの少量生産も必要になると考えられる背景から,ソーダ・アントラキノン蒸解によって調製したパルプを原料とし,酵素処理とビーズミルを用いた湿式解砕(酵素・湿式解砕)によるセルロースナノファイバー(CNF)の一貫製造を実施している。中小規模でのCNF製造,とくにバッチ式の少量生産方式を採用した場合には,大規模に連続製造するよりも原材料であるCNFに直接触れてしまう機会が増えることから、各種の安全性試験を行った。急性経口毒性試験,微生物を用いる変異原性試験,哺乳類培養細胞を用いる染色体異常試験,ウサギを用いる皮膚一次刺激性試験およびモルモットを用いる感作性試験を実施し,全ての試験において異常に繋がる結果は得られなかったことから,通常取り扱いの範囲において,スギCNFは生体に対する変異原性や接触した際の皮膚に対する刺激性の原因となる要素は低いと考えられた。CNFの安全性に関する検証結果を蓄積していくことは,CNFが異業種へ展開していく際に重要になると考える。

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