組織培養研究
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口腔癌細胞の膜脂質組成の相違に基づく抗癌剤感受性
虎谷 茂昭岡本 哲治新木 恒猪尾崎 輝彦薮本 正文田中 良治谷 亮二高田 和彰
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1996 年 15 巻 2 号 p. 147-153

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抄録
腫瘍の組織型や抗癌剤の種類により抗腫瘍効果に差を生じることはよく知られている。本研究では無血清培養条件でシスプラチン(CDDP)、ペプロマイシン(PEP)およびドキソルビシン(DXR)に対する5種類のヒト由来癌細胞の感受性の違いとその原因について検討した。CDDPは唾液腺腺癌細胞(SAC)に対して扁平上皮癌細胞(SCC)よりも高い殺細胞作用を示した。一方、SCCはSACに比較してPEPとDXRに対して高い感受性を示した。これらの抗癌剤は受動輸送により細胞内に取り込まれることから、細胞膜の脂質組成により決定された膜透過性の相違が抗腫瘍効果に影響を及ぼしていることが考えられた。癌細胞の膜の脂質組成は、SCCでは70%以上がリン脂質であり,SACでは80%以上がトリグリセライド等の中性脂質で占められていた。中性脂質の上昇は細胞膜の流動性の低下を招くためSACはCDDPに対して感受性が高くなり、SCCの膜脂質は主にリン脂質から成るためSCCはSACに比べてPEPとDXRに対し高い親和性を示したものと考えられた。以上の結果から癌細胞膜の脂質組成の相違が抗癌剤の感受性を決定する一因であることが示唆された。
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© 日本組織培養学会
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