抄録
本稿では、日本語学習者に対する有益なアカデミックプレゼンテーション教育への示唆を得ることを
目的に、口頭発表準備過程における教師の口頭によるフィードバック(以下FB)を分析した。調査協
力者は、日本語能力が初級後半で大学院レベルの研究留学生とその授業を担当する教師で、分析対象は、
発表原稿とスライド、推敲時の教師との会話データ、及び学習者と教師へのインタビューである。調査
の結果、当該留学生は、日本語能力は低いが既にアカデミックな活動経験を持ち、教師は学習者のそれ
らの経験を活用し、指示的、協働的、促進的なFBを行っていた。FBの主な対象は視覚資料、論理展
開、専門内容、及び言語表現であった。学習者は推敲過程で、内容の多角的な思考や分析、構成や表現
方法の検討、及び聴衆の存在を意識した発信の重要性に対する認識が深まったと言える。このような狭
義の言語能力を超えた、学習者の今後の研究活動に必要な基盤となる素養の涵養は、学習者のアカデミ
ックな知識や経験を活用した専門日本語教育における指導の意義であると考えられる。