抄録
医療現場で使われる業界用語に看護師が問題を感じているとの報告が多数ある一方で、それらの必要性を背景として業界用語は日常的に多用され続けている現状がある。本稿は、看護師20名へのインタビュー調査から業界用語の機能およびその看護業務上の使用意義について明らかにし、業界用語が特に理解困難な外国人看護師向けの日本語教育の観点から考察を行ったものである。調査の結果、業界用語には①情報伝達の効率化、②秘密保持・秘匿、③婉曲化、④ユーモア表出、という4つの機能があることが明らかとなった。それらの機能を持つ業界用語は、会話時の時間短縮や記録時の負担軽減のために使われ、他人に聞かれない環境を作るのが困難な状況では患者への配慮や、患者の個人情報保護のために隠語の役割を果たす。また、業界用語は患者の死のような心理的負担になりかねない状況を婉曲に表現でき、ユーモアとしても用いられる。外国人看護師が医療チームのメンバーとして業務を進めるためには、業界用語の機能とその意義を理解することが求められるが、業界用語の使用には診療科・施設ごとの差異があるため、受け入れ施設の実情に応じた学習支援の必要性も指摘できる。