抄録
本研究の目的は、日本語学習者が日本語で書かれた論文を効率的に読むために、どのような手がかりを提供すればよいか考察することである。そのために、複合格助詞「によって/により」をとりあげ、教育実践に関する論文中の出現状況を分析する。その結果をふまえて、「によって/により」が係る述語を特定するための手がかりにはどのようなものがあるか、「によって/により」がどのような意味で使われているかを見分ける手がかりにはどのようなものがあるかを明らかにする。本研究では、「によって/により」の後の読点と、前件の「動詞+こと」に注目した。分析の結果、「によって/により」の後に読点がない場合は、そのすぐ後の動詞が述語である可能性が非常に高いこと、「によって/により」のすぐ後の動詞が名詞修飾節中にある場合は、その動詞が述語である可能性が低いことが示された。また、「によって/により」は「手段」か「原因」の意味で用いられたものがほとんどであるが、「によって」の後に読点がない場合は「対応」の意味で用いられている可能性も考慮すべきことが示唆された。逆に、前件が「動詞+こと」の場合は「手段」「原因」以外の意味で用いられている可能性は非常に低いことが示唆された。