The Journal of Toxicological Sciences
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抗不安薬Buspirone hydrochlorideの生殖・発生毒性試験(第1報) : ラットにおける胎仔の器官形成期経口投与試験
甲斐 修一河村 寿石川 克己太田 敏黒柳 幸司河野 茂生門田 利人近沢 弘隆近藤 博志高橋 紀光
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1990 年 15 巻 SupplementI 号 p. 31-60

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抄録

抗不安薬buspirone hydrochloride (buspirone) を2, 12及び75mg/kg/日の割合で, Crj : CD (Sprague-Dawley)ラットに, 妊娠7日目より17日目までの11日間反復経口投与し, 概略次の結果を得た. 1. Buspirone 75mg/kgの投与により投与期間中の母獣(F0)の自発運動は抑制され, 摂餌量の減少を伴う体重増加抑制が認められた. 2. 母獣(F0)の妊娠末期剖検において, buspirone 12mg/kg以上の投与群で肝重量, 75mg/kg群で脳・下垂体・副腎・卵巣重量が増加した. 3. Buspirone 75mg/kg群で胎仔(F1)の体重・体長・尾長が低値であり, 発育は抑制された. 更に, 同群で第5・6胸骨未骨化の発現率が高く, 胸骨, 頸椎及び前後肢に骨化遅延が認められ, 肋骨結節及び波状肋骨の発現率が上昇した. また, 12mg/kg群においても胎仔(F1)の骨化遅延が認められた. 4. 新生仔(F1)の出生に対するbuspirone投与の影響はみられなかった. 5. 育成仔(F1)の生存率, 分化の状況, 学習能力, 運動能力, 運動性及び情動性に及ぼすbuspironeの影響はみられなかった. 6. Buspirone 75mg/kg群のF1ラットの雄で6から8週齢時に摂餌量の減少, 雌で4から9週齢時に体重の増加抑制が認められた. 7. Buspirone 75mg/kg群の雌雄F1ラットで10週齢時及び交配後の剖検において脳重量及び雄F1ラットで離乳時剖検において肺重量の減少, 雌F1ラットで10週齢時剖検において脾重量の増加が認められたが, 生殖能に対するbuspironeの影響はみられなかった. 8. F1ラットより得られた新生仔(F2)の出生に対するbuspirone投与の影響はみられなかった. 以上のように, ラット胎仔の器宮形成期に投与されたbuspironeは12mg/kg以上の投与量で母獣の肝重量が増加し, 胎仔(F1)の骨化は遅延した. 更に, 75mg/kgの投与量で母獣の自発運動及び体重増加が抑制され, 脳・下垂体・副腎・卵巣重量が増加し, 胎仔(F1)に対しては発育抑制と助骨の異常, またF1ラットに対しては雄ラットの摂餌量の減少と雌ラットの体重増加の抑制, 10週齢時及び交配後の剖検における脳重量の減少, 雄ラットの離乳時剖検における肺重量減少並びに雌ラットの10週齢時剖検における脾重量の増加を誘起したが, F1ラットの学習能力, 運動能力, 運動性, 情動性及び生殖能には影響を及ぼさなかった. 一方, 2mg/kgの投与量では親動物, 胎仔及びF1ラットとも影響を受けないことが示唆されたため, 本試験における親動物及び次世代(F1)に対する無影響量は2mg/kg/日と考えられた.

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