1994 年 20 巻 p. 79-98
本研究はメキシコとインドネシアにおける伝統的住居を対象とし,形態的および構造的な特性を明らかにすることを主たる目的としている。今年度は前回のメキシコの調査・研究に引き続いて,インドネシアにおける8か所の伝統的集落・住居の調査を実施した。インドネシアは多数の島から成るが,風土的な差異は比較的小さい。しかし,民族の多様性が反映され,各地域における住居の形態には著しい特性が見られる。その特性を分析するために,まず,住居の空間構成について領域論的な把握を試みた。具体的には,境界・内界・外界という領域形成の基本要素に従って,建物の近傍に形成される1次圏域,住居と集落を区分する2次圏域という入れ子構造の領域を措定した。また,境界の一部が装置化された媒介空間を閾と呼び,凸型・凹型・切断型の3つに分類し,さらに,建物の内界を垂直方向に屋根裏・床上・床下に区分した。このような諸概念を用いて調査住居の空間構成に見られる類似性と差異性を明示した。次に,形態的な固有性を明らかにするために,その変様原埋について考察した。取り上げたのは,1)規模の卓越性:住居の高さや長さの誇示,2)特異な形態:屋根,棟飾り,柱の彫刻等,3)独自の要素:ランガー・巨石・男の棟・女の棟・セレモニーハウス・祭礼広場・アニミズムハウス等,4)配列の様式:コンパウンド形式・方位と棟の方向の関係・アニミズム信仰に基づく柱の配置等である。この4つの原理によって,部族の同一性が表徴され,住居の多様性が助長されていることを示した。伝統的住居の構造的特性に関しては,鉛直荷重,構造材料,部材間の接合部の構法について,各地域ごとに比較分析した。また,現代住居については構造的な見地から問題点の指摘を行なった。最後に,近代化に伴う伝統的住居の変容過程について,素材・形態要素・形式の3つのレベルに分けて,日・墨・イ3国間の比較を試みた。