動物循環器病学会学術誌
Online ISSN : 2432-5392
症例報告
腹膜透析を実施した急性腎障害の猫の1 例
原田 佳代子水野 壮司侭田 和也上地 正実
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2017 年 1 巻 2 号 p. 25-30

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抄録

去勢雄、9 ヵ月齢の雑種猫が、重度の高窒素血症と無尿を呈して来院した。初診時の血液検査では、尿素窒素 (BUN)(>140 mg/dL)およびクレアチニン (Cr)(15.1 mg/dL)の上昇が認められた。また、血漿カリウム濃度が9.8 mEq/L と顕著に上昇しており、心電図検査で高カリウム血症に起因するP 波の消失およびQRS 幅の延長が認められた。発症の経緯および治療経過、各種検査所見の結果から、International Renal Interest Society (IRIS) の急性腎障害(AKI)診断基準におけるグレード5 の腎性AKI と判断し、腎代替療法として腹膜透析を実施した。第3 病日に全身麻酔下で開腹術を行いディスク型腹膜透析用カテーテルを肝臓横隔膜面に設置した。腹膜透析は、透析液を腹腔内に注入し、2–3 時間後に自然落差を利用して排液させる作業を繰り返して行った。第6 病日から徐々に尿量の増加が認められるようになり、第8 病日には一般状態の改善、第9 病日に食欲の改善が認められた。血液検査所見は緩やかに改善し、第21 病日の退院時には、BUN(62.8 mg/dL)およびCr(2.2 mg/dL)が低下した。術後1 年8 ヵ月後現在、血液検査上BUN およびCr 値は正常に回復し、無治療で良好に経過している。猫におけるディスク型の腹膜透析カテーテルを使用した腹膜透析に関する報告は少なく、その詳細の多くは明らかになっていない。本症例では、ディスク型のカテーテルを肝臓横隔面に設置することにより、腹腔内のカテーテルの位置移動や大網や腹腔内脂肪によるカテーテル閉塞を起こすことなく、効率的な注排液を行うことができたと示唆された。

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© 2017 一般社団法人動物循環器病学会

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