動物循環器病学会学術誌
Online ISSN : 2432-5392
症例報告
体外循環下で右心房内腫瘤の減容積術を行なった犬の一例
侭田 和也水野 壮司水野 祐原田 佳代子高野 裕史高橋 新音篠田 麻子陳 郁佳上地 正実
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キーワード: , 心臓腫瘍, 血管肉腫, 開心術
ジャーナル オープンアクセス

2018 年 2 巻 1 号 p. 6-12

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抄録

症例はジャック・ラッセル・テリア、9 歳2 カ月齢、未去勢オス。体重は8.2 kg であった。腹水貯留による努力性呼吸、失神を主訴に当センターを来院。身体検査所見として腹部の波動感、四肢の浮腫が認められた。胸部X 線検査において明らかな肺転移を示唆する所見は認められず、腹部X 線検査では腹部全域にわたり不透過性の亢進を認めた。心臓超音波検査において右心房内を占拠する腫瘤病変および三尖弁逆流、右心室容積の縮小、僧帽弁逆流を認めた。治療としてうっ血性右心不全の改善を目的に、体外循環下による右心房内腫瘤の減容積手術を実施した。また、術後に左心系への血流量増加により、僧帽弁閉鎖不全症が悪化することが予測されたため、僧帽弁修復術も同時に実施した。術中所見として、腫瘤は右心房壁および心房中隔と癒着し、前後大静脈への浸潤が認められた。なお、開胸時に右肺中葉の一部に出血痕が認められた。病理組織学的診断では、右心房内腫瘤は血管肉腫、肺の出血痕は初期の転移性病巣との診断を得た。病理診断後、ドキソルビシンによる補助化学療法を開始した。術後、臨床徴候は改善し、経過は良好であったが、術後50 日に腹水貯留、術後第57 日に胸水貯留による呼吸状態の悪化が認められた。胸水抜去により呼吸状態の改善が得られたが、術後第58 日に虚脱後、死亡が確認された。本症例は術後、再度腹水貯留が認められるまで一時的に右心不全徴候が消失し、良好な生活の質 (QOL) を維持することができた。心臓血管肉腫の右房内占拠により右心不全を呈した症例において、腫瘤の減容積手術はうっ血性右心不全の一時的な改善に有用であると考えられた。

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© 2018 一般社団法人動物循環器病学会

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