動物循環器病学会学術誌
Online ISSN : 2432-5392
症例報告
膵炎の併発により失神を呈したと推測される肺高血圧症罹患犬の1 例
亀島 聡 木村 祐哉伊藤 直之
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2019 年 3 巻 1 号 p. 17-22

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抄録

症例は13 歳齢、未去勢雄の柴犬で、排尿時の失神を主訴に来院した。呼吸促迫および顔面浮腫を呈しており、胸部レントゲン検査において右心および肺動脈径の拡大、前胸部の間質パターンを認めた。また、心臓超音波検査において三尖弁逆流および心室中隔壁の扁平化に加え、左室拡張障害を示唆する所見を認めた。以上の検査成績から肺高血圧症および左心拍出量低下を原因とする心原性失神である可能性が考えられたが、排尿時の失神であったことから神経調節性失神も疑われた。肺高血圧症および心不全に対する治療に反応し、左室内腔の狭小化は改善した。しかし高栄養食を給餌した翌日より腹部圧痛を示すようになった。加えて、腹部超音波検査において膵臓領域のエコー源性は亢進し、血液中のリパーゼ活性およびC 反応性タンパク質濃度が高値を示したことから膵炎の併発と判断した。このとき左室径は維持されていたものの、左室内径短縮率の低下を認めた。さらに起床後の排尿時に失神を呈するようになったため、強心薬を増量し低脂肪食に変更した。その結果、左室内径短縮率は増加し、血中リパーゼ活性およびC 反応性タンパク質濃度の減少に加えて失神も消失したため退院とした。本症例は肺高血圧症およびそれに伴う心不全に対する治療に反応し、一度は病態の改善傾向を示したが、膵炎の併発に伴い再び失神を呈するようになった。この失神は肺高血症および心不全の状態で、膵炎の併発により生じた迷走神経反射の亢進および心収縮力の低下が原因であると推測された。器質的な心血管疾患を有する動物において、血行動態に影響を及ぼす疾患の併発は、その病態を増悪する可能性があると考えられた。

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© 2019 一般社団法人動物循環器病学会
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