動物循環器病学会学術誌
Online ISSN : 2432-5392
3 巻, 1 号
選択された号の論文の3件中1~3を表示しています
総説
  • 末松 正弘
    原稿種別: 総説
    2019 年 3 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2019/06/29
    公開日: 2019/06/29
    ジャーナル オープンアクセス

    呼吸器疾患は上部気道、気管・気管支、末梢気道・肺実質の3 つの区分に分けることができる。このうち、上部気道および気管・気管支における呼吸器疾患は時に重症化し、時に動物の生命に関わる状況で遭遇することがある。病変部位により異なる特徴的な異常呼吸音が聴取され、鼻腔、咽頭領域ではスターター、喉頭・気管領域ではストライダーが聴取されるため責任病変の部位特定が可能になることも多い。外鼻孔では外傷、狭窄、感染あるいは炎症、鼻腔内病変では半数に腫瘍性が確認されており、その他、炎症、感染、寄生虫、異物など原因は多岐にわたる。咽頭では咽頭虚脱、狭窄、腫瘍(ポリープを含む)、炎症などが認められる。喉頭では神経性、腫瘍性、炎症など様々な疾患が認められるが、喉頭麻痺で来院する動物は比較的多い。気管・気管支では虚脱、腫瘍、外傷、狭窄、炎症、感染および異物が認められる。これら上部気道および気管・気管支では、気道閉塞が重度であれば生命に関わることも多く、早期の診断治療が必要となる。診断は異常呼吸音の聴取、触診、オーナーへの問診、画像診断により仮診断を行い、その後、麻酔下にて目視や内視鏡検査、必要であれば細胞診を実施し確定診断をする。治療方法は疾患により異なるが上部気道および気管・気管支の閉塞解除が目的となる。今回は上部気道、気管それぞれの診断と治療について執筆させていただく。

  • 髙野 裕史
    原稿種別: 総説
    2019 年 3 巻 1 号 p. 8-16
    発行日: 2019/06/29
    公開日: 2019/06/29
    ジャーナル オープンアクセス

    肺高血圧症は肺動脈圧が上昇する病態を指し、動物病院における心エコー装置の普及に従って、犬においても比較的頻繁に遭遇する病態となってきている。肺高血圧症の病因は肺循環血液量の増加、肺血管抵抗の上昇、肺静脈圧の上昇に大別されその病態は複雑となる。また、基礎疾患が治療方針に影響することも一般的である。犬の場合、僧帽弁閉鎖不全症に起因する肺高血圧症が最多であるが、肺疾患、短絡性心疾患による肺高血圧症も一定の割合で認められ、特発性肺動脈性肺高血圧症の報告もなされている。原因疾患の特異的治療が第一優先となるが、一酸化窒素―cGMP 経路に作用するホスホジエステラーゼ5 型の特異的阻害薬であるシルデナフィルも肺血管拡張薬として広く用いられるようになってきており、肺動脈圧の低下や臨床徴候の改善を期待できる。

症例報告
  • 亀島 聡, 木村 祐哉, 伊藤 直之
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 3 巻 1 号 p. 17-22
    発行日: 2019/06/29
    公開日: 2019/06/29
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は13 歳齢、未去勢雄の柴犬で、排尿時の失神を主訴に来院した。呼吸促迫および顔面浮腫を呈しており、胸部レントゲン検査において右心および肺動脈径の拡大、前胸部の間質パターンを認めた。また、心臓超音波検査において三尖弁逆流および心室中隔壁の扁平化に加え、左室拡張障害を示唆する所見を認めた。以上の検査成績から肺高血圧症および左心拍出量低下を原因とする心原性失神である可能性が考えられたが、排尿時の失神であったことから神経調節性失神も疑われた。肺高血圧症および心不全に対する治療に反応し、左室内腔の狭小化は改善した。しかし高栄養食を給餌した翌日より腹部圧痛を示すようになった。加えて、腹部超音波検査において膵臓領域のエコー源性は亢進し、血液中のリパーゼ活性およびC 反応性タンパク質濃度が高値を示したことから膵炎の併発と判断した。このとき左室径は維持されていたものの、左室内径短縮率の低下を認めた。さらに起床後の排尿時に失神を呈するようになったため、強心薬を増量し低脂肪食に変更した。その結果、左室内径短縮率は増加し、血中リパーゼ活性およびC 反応性タンパク質濃度の減少に加えて失神も消失したため退院とした。本症例は肺高血圧症およびそれに伴う心不全に対する治療に反応し、一度は病態の改善傾向を示したが、膵炎の併発に伴い再び失神を呈するようになった。この失神は肺高血症および心不全の状態で、膵炎の併発により生じた迷走神経反射の亢進および心収縮力の低下が原因であると推測された。器質的な心血管疾患を有する動物において、血行動態に影響を及ぼす疾患の併発は、その病態を増悪する可能性があると考えられた。

feedback
Top