獣医疫学雑誌
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牛伝染性リンパ腫について~疫病の概要と対応の現在地~
牛伝染性リンパ腫と清浄化への取り組み
村上 賢二
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2024 年 28 巻 2 号 p. 89-94

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抄録

牛伝染性リンパ腫(EBL)は,牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)による感染症で,国際的に重要な家畜疾病である。日本では届出伝染病に指定されており,経済的被害は甚大である。EBLの主な特徴として,感染牛の多くは無症状だが,約30%は持続性リンパ球増多症(PL)を呈し,数%は発症する。感染伝播様式には,水平感染と垂直感染の2つがある。近年,日本での感染率は急増しており,特に若齢牛での発症が問題となっている。

清浄化対策においては,2006年から2008年に農林水産省の委託を受け高感度定量PCR法が開発された。この手法により,ウイルス量を指標とした「高度感染牛摘発型」の清浄化対策が可能となった。さらに,JRA畜産振興事業の支援を受け,清浄化のための,①高度感染牛の摘発と分離飼育モデル,②感染子牛育成センター設置モデル,③地域BLV検査センターと感染子牛育成センターを併用した総合型清浄化モデル,の開発研究が段階的に実施された。

今後の清浄化対策の課題としては,垂直感染,特に感染母牛から生まれる感染子牛対策が挙げられる。また,地域全体での協調的な取り組みの必要性や,清浄化対策の持続可能性を担保するためのコスト負担の問題も重要である。これらの課題の解決が,EBL清浄化に向けた次のステップとなるであろう。

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