抄録
北部ベトナムの小農コミュニティで飼養されている乳牛に対する肝蛭防除計画の実施を想定し, その経済的便益を検討するために決定論的及び確率論的便益費用モデルが開発された。正味現在価値が黒字であり, かつ便益費用比率が1を上回る決定論的モデルのシミュレーション結果から、本防除計画の経済的有益性が明らかになり、各酪農家の年平均追加収益は約40米ドルと見込まれた。パラメータの不確実性を考慮する確率論的モデルでは、本防除計画採用後に約20%の酪農家が100米ドルを超える年平均追加収益を得る一方, 25%は損失を負う可能性が予測された。この差異は肝蛭感染以外の要因が, 調査地域における乳牛の衛生及び生産に影響するとの事実により, 一部説明付けられる。当該モデルのシミュレーション結果は, 泌乳期ごとの個体平均乳生産量, シミュレーション開始時における各酪農家の経産牛飼養頭数及び雌牛の出産に係る確率等の要因の順に影響されることが、感度分析により示された。同モデルは, 他の家畜衛生プログラムの実施にかかる経済的インパクトを検討するためにも有効である。