2017 年 70 巻 12 号 p. 787-791
食欲不振を主訴に受診した3歳5カ齢のホルスタイン種乳牛が,下顎と胸垂の浮腫,頸静脈怒張,泥状下痢を呈したため創傷性心膜炎を疑った.心臓超音波検査により多量の心囊水の貯留が確認されたが,フィブリン析出はみられなかった.心囊水は赤色血様であったが腫瘍細胞はみられなかった.血液及び生化学検査では強い炎症像はみられなかった.第20病日に心膜穿刺により心囊水5l を除去したところ,翌日以降,浮腫の軽減,腹水・胸水・心囊水の減少とともに,一般状態が改善した.しかし,その後症例には聴診及び心臓超音波検査所見から心室中隔欠損が確認されたため,第29病日に病理解剖を行った.病理解剖では,血様心囊水の由来となる病変は認められず,特発性心囊血腫と診断された.心膜穿刺による心囊水除去は本症の治療の選択肢になり得ると考えられた.