日本獣医師会雑誌
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GnRH類似体投与により黄体化した卵胞嚢腫牛におけるPGFの発情誘起効果および受胎成績
中尾 敏彦平野 一恵森本 龍之助杉山 定寛岡 千晶安田 牧人初谷 敦原 英文森好 政晴河田 啓一郎
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1987 年 40 巻 5 号 p. 329-335

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抄録

GnRH・A (酢酸フェルチレリン) 投与により, 黄体化した卵胞嚢腫牛にPGFを投与する方法が, 治癒期間の短縮に効果があるかどうかを明らかにするために, 臨床上卵胞嚢腫と診断された75頭を無作為にA・B2群に区分し, A群の31頭にはGnRH・Aを100μg筋肉内注射 (筋注) 後, 10~14日目に黄体化の有無に関係なく全頭にPGFを25mg筋注し, B群の44頭に対してはGnRH・Aを100μg筋注後, 10~14日目に臨床上黄体化していると判定されたものは無処置のままとし, 黄体化していないものにはGnRH・Aを200μg追注した.卵胞嚢腫と黄体嚢腫の判別診断, 卵胞嚢腫の黄体化判定, PGF投与後の黄体退行の指標として脱脂乳中Progesterone (P) 値をEnzyme immunoassay (EIA) により測定した.
臨床上卵胞嚢腫と診断された例の中で, 脱脂乳中P値により, 黄体嚢腫と判定されたものはA群31頭中5頭, B群44頭中6頭であった。このうち, 黄体嚢腫例は治療効果判定から除いた.また, 脱脂乳中P値から, GnRH・A投与後黄体化したと判定されたものは, A群で76.9%(20/26), B群で47.4%(18/38) であった.以後, これらの黄体化例のみについて発情誘起効果および受胎成績を検討した.
卵胞嚢腫黄体化後, PGFを投与したA群の20頭では, 全頭 (100%) で6日以内に脱脂乳中P値が著しく減少し, 17頭では発情が確認された.3頭は発情の見逃し, または鈍性発情と考えられた.A群では治療開始後40日以内に95.0%6 (19/20) が授精 (AI) されたが, B群では100日以内にAIされたのは44.4%6 (8/18) にすぎなかった (P<0.05).また, 初回治療からAIまでの平均日数は, A群で19±9日と, B群の39±26日に比べ著しく短かった (P<0.05).初回治療後100日以内で受胎したものは, A群で60.0%6 (12/20), B群では40.0%(6/15) であり, 受胎までの平均日数はそれぞれ33±19日, 44±26日であった.また, 初回治療後さらに再治療を行った後に受胎した例を含めた100日以内の総受胎頭効の割合は, A群で65, 0%(13/20), B群で61.1%(11/18) であり, 受胎までの平均日数は, それぞれ34±8日, 49±24日であった.
以上の結果より, あらかじめ卵胞嚢腫を正しく診断し, GnRH・A投与後の黄体化例にPGFを投与し, その後の発情を適切に発見すれば, 黄体化後無処置で放置した場合に比べ, 治癒期間が著しく短縮されることが確認された.

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