抄録
著者らは, さきに, 各種疾病時における犬の血清Caの動態のうちで, とくに血清透析性Caの低下が, 生体の感染防衛反応に示す態度を究明する目的から, 内科臨床の全般にわたり, 血清Ca・血液一搬性状・血清蛋白像・肝機能および尿などの諸検査を実施した. その結果, 犬糸状虫症・肝炎・レプトスピラ症・鉤虫症など, 肝と腎の障害または貧血を主徴とする諸種の疾患において, 低血清透析性Ca伏態の傾向があることを認めた. 次いで, 生体防衛反応における実験的低血清透析性Ca状態の意義を究明する第一段階として, 四塩化炭素の皮下注射によって肝障害を起こさせた家兎において, 血清Caの動態を検索した. その結果と, 犬糸状虫症および肝炎の臨床成績とを比べて, 肝障害と血清Caとの関係を追究した. 四塩化炭素の大量, 中等量または少量を注射すると, いずれも注射後明らかに血清Caが低下し, その後しばらくたって回復に向かうが再度注射すると, 血清Caは減少した. 血清透析性Caが急激かつ著明に低下したままで, 回復の傾向が認められない実験例は, すべて死の転帰を取った. なお慢性移行型肝障害(少量注射群)の場合にも, 血清透析性Caは明らかに低下した. これらの実験例の肝を組織学的に検索したところ, 大量注射群においては, 急激な循環障害に基ずく肝障害像と思われる所見が認められた. また中等量および少量の反復注射群においては, 程度に差はあるが, 肝細胞および網内系組織の障害があることがわかった. 以上の実験例における肝組織の障害像と, 血清Caの著明な低下現象から, 犬糸状虫症および肝炎の臨床例における血清Caの低下状態は肝機能の障害と関係があるのではないかと推察した.