日本獸醫學雜誌(The Japanese Journal of Veterinary Science)
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鳥取地方に発生した豚痘様疾患について
五藤 精知中松 正雄森田 迪夫福井 徳麿
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1968 年 30 巻 2 号 p. 61-72_4

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抄録
1966年10月初旬,発痘後約20日を経過した3.5カ月令の豚の痘癒の自然感染例3例に遭遇した.それらは全身に著明な発痘を見,すてに痴皮を形成しているのもあった.組織学的には,すでに表皮は再生し,潰瘍の形成するものもあったが,封入体は認められなかった.真皮には,著明な組織球性反応のほか,好掖球・好中球の出現,出血・浮腫があり,異物巨細胞も認められた.これらの皮膚病巣を乳剤として,生後1カ月の子豚2頭の皮膚に接種したところ,約1週後に発赤し,10日後に丘疹を形成した.10~15日後の組織では,表皮の肥厚,有鯨細胞の風船様変化,原形質封入体の出現,豚固有の痘癒に特徴的といわれる核内空胞の出現力泪立った.16日後には,発痘部は肉眼的に褐色調を帯び,19日後の組織では,痴皮および潰瘍形成を見,表皮は消失していたが,一部にはすでに再生も認められた.25日後には,痴皮は脱落し始め,組織では,表皮の再生が認められたが,不完全で,真皮には浮腫とともに組織球性反応,好演球の出現があった.細胞内封入体は,Hematoxy11n-Eosin染色に著しい掖好性を呈する円形・均質性封入体と,弱掖好性で,原形質との境界やや不明瞭な,不規則な辺縁を持つ不整形封入体とに分けられた.前者はGiemsa染色で青色,Azan染色で淡青色,PAS陽性で紅色を呈した.後者はGicmsa染色で淡青または不染,Azan染色で橙色,PAS陰性を呈した.さらに後者には,Fculgcn反応陰性か,わずかに淡青をなしていると思われるものもあった.電子顕微鏡的には,10~15日後の有鯨細胞内に,多数のウィルス粒子が認められるとともに,豚におけるワクシニア痘との鑑別に強調されている層板状構造物が認められた.光学顕微鏡で見られた核内空胞は,電子密度の低い微細な線維状構造物 で置換されていた.実験例における発痘部皮膚乳剤は,さらに別の子豚に痘癒病変を起こした.上記の自然例および実験例の皮膚乳剤は,家兎およびマウスには発痘を来たさなかった.以上の成績より,本例は,豚固有の痘瘉ウィルスによって起こったものと思われる.
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