著者らは第III報において, Toxascarisleoninaの犬系,猫系,ライオン系,トラ系およびチータ系の成虫と虫卵の計測値をそれぞれ比較して,これらの間に差が存在することを指摘した.本編では,同じくこれら5系のT.leoninaの虫卵を,犬および猫へ人工感染を実施した.その要約は,次の通りである.1.犬系虫卵を犬に人工感染させた場合は,感染率89.2%,prcpatcntperiod48~77日で感染が成立した.このうちで,成犬への感染率は72.7%を示したが,Toxocaracanisが成犬にはほとんど感染しないことと比較すれば,著しい相違であった.なお,感染犬を駆虫した後に行なった再感染実験においては,感染率40%, prepatentpcriod62~63日であった.次に,妊娠中の雌犬5頭に犬系虫卵を投与して,その産仔計26頭を検査した結果,胎盤感染は全く否定された.2.犬系虫卵を猫に投与した場合は,感染が全く成立しなかった.このことは過去の日本において,犬のT.leonina自然感染が多数存在したのにもかかわらず,猫の自然感染が,I965年Hawaii輸入猫に発見されるまで全く認められなかった事実と符合する.次に,犬系虫卵をparatcnichostとしてのマウスを経由して猫に投与した場合には,5例中2例に感染を認めたが,早期に自然排虫する傾向が認められた.従って大系のT.leoninaに対しては,猫は好適宿主ではないと認められた.3.猫系虫卵によっては,犬猫両者に容易に人工感染が成立し,犬ではprepatentperiodは50日,猫では62~63日であった.4.ライオン系虫卵を犬および猫へ,またトラ系,チータ系の虫卵を猫に人工慝染した結果,いずれの場合にも感染が成立した.しかしながら,猫への感染性は低い傾向が認められた.5.犬系T.leoninaの犬体内諸臓器における仔虫の分布と発育状況,および猫系T.leoninaの猫体内におけるそれらを検討した結果,双方ともtrachcalmigrationの経路をとらず,腸壁および腸内腔への出入により発育する,いわゆるabdominalmigrationを行なうことを確認した.以上の感染実験の成績を総括して考察すれば,猫は猫系以外の各系のT.leoninaに対して感受性が低く,正常の宿主と認め難い.特に犬系虫卵は,猫への感染性がなく,特異性を有することを認めた.次に,犬は仔犬,成犬の別なく,各系のT.leoninaに感受性を示した.
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