抄録
従来, 牛では赤血球沈降速度が極端に遅いため, 末梢血から大量の白血球を収集することは, きわめて困難であることが知られている. 私たちは, 1958年 NAGEL らが報じている塩化アンモニウム液を用いた溶血法に注目し, まず10例の健康牛の末梢血を用いて, 収集方法について検討した. その結果, 血液と0.83%塩化アンモニウム液との混合比率は1:2, および混和時間は3分間が, 赤血球を全く含まず, かつ障害の少ない白血球を得るための望ましい方法であることを知った. 次いで, 本改良法を用いて, 10例の健康牛の末梢血から分離収集した白血球について, 新鮮血のそれを対照として, 血液学的検討を試みた. その結果, 正常細胞の減少, 破壊細胞およびいわゆる ghost cell の増加, エオジン可染性細胞の増加, 単球および好酸球の墨粒貧喰能の減退, 白血球白分比における好中球の増加およびリンパ球の減少が推計学的にそれぞれ有意であった. しかしながら, 正常細胞の出現率は, 平均89.95%となお著しく高く, また死亡細胞のそれは11.75%に過ぎなかった. 一方, 電顕的観察では, 細胞膜および細胞質内小器官に, 処理の影響と思われる所見を示す細胞もあったが, その程度は軽微であり, 大部分の細胞は, それぞれの細胞に固有な微細構造上の特徴像を, 充分保持していた. 以上のごとく, 本法を用いて収集した白血球では, 処理の影響をうけることは明らかではあるが, 本法は, その目的によっては, 充分有用な牛白血球の収集法と判断される.