抄録
臨床的に原因不明の神経症状を発現して死亡した2頭の犬と, 生存中なんら神経症状を示さなかった1頭の犬について, 病理学的および寄生虫学的検索を行い, 以下の結果を得た. 1. 神経症状を示した2頭の犬のうち, 1頭は左大脳脚, 他の1頭は左シルビウス外回髄質内に虫洞を形成し, 内部に糸状虫(各1隻)を認めた. 中枢神経系の病理学的所見は, 虫体の穿通に基づく脳組織の破懐と多発性出血性軟化巣の形成, および軸索・髄鞘の変性・崩壊などの統発性病変であった. 神経症状を示さなかった犬では, 脳摘出の際, 切断された右背大脳静脈内に糸状虫が栓塞し, 同静脈断端から虫体の一部が突出しているのを認めた. 虫体に近接する右大脳梨状葉に, 血鉄症を伴う小豆大の破壊軟化巣を認めた. 2. 脳内および背大脳静脈内検出虫体は寄生虫学的検索により, いずれも犬糸状虫 Dirofilaria immitis (Leidy, 1856) の未成熟成虫 (第1例: 雌, 第2例と第3例: 雄) と同定された. 3. D.i. の頭蓋内侵入経路について考察した. 4. 本症は通常のD.i. 症と病理発生を全く異にする. したがって本症に「脳犬糸状虫症 Cerebral dirofilariasis」の病名を提唱する. 本論文の要旨は, 第67回日本獣医学会 (l969年, 東京) において発表した. 稿を終るに臨み, 虫体の同定に際し, 御助言いただいた家畜内科学教室 野田亮二教授, ならびに貴重な材料を提供していただいた是枝哲世獣医師に深謝する.