抄録
あるネコ飼育舎において集団発生したネコのウイルス性鼻気管炎の23症例について, ウイルス学的および病理学的検索を行なった. ウイルス学的検索では, ほぼ全例の鼻および咽頭のぬぐい液から, 同様な性状の細胞病原性を示す病原体が分離された. このうちの一株を選び, 理化学的および生物学的性状を調べたところ, この病原体はヘルペスウイルス群のウイルスで, さらにネコのウイルス性鼻気管炎の病原ウイルスとして記載されているものと, その性状が一致した. 病理学的変化は上部気道, 眼瞼および口の粘膜に主として観察された. これらの部位では, 粘膜上皮細胞における封入体の形成, およびこれに続く退行性変化が, 粘膜上皮層の破壊を招来し, これに伴って粘膜固有層に, 広範囲にわたって惨出性現象が起こる過程が観察された. 同時に, 鼻甲介で甲介軟骨の変性および甲介骨の骨解体が認められた. 粘膜上皮および粘膜腺上皮に観察された核内封入体は, 著明に腫大した核のほぼ全域を占め, 明暈の形成が明らかでない淡両染性のものが多く, 核のほぼ中央に位置し, 核壁との間に明瞭な明暈を伴う好酸性のものは, むしろ少なかった.