抄録
肝蛭の成虫の抽出液に対する抗血清を用い, 成虫, 35日と14日齢の幼虫およびメタセルカリアの抗原の性状をゲル内沈降反応で比較した.成虫と幼虫はともに2本の沈降線"a"と"b"を形成した. メタセルカリアにより認められた沈降線は1本で, これは成虫により形成された沈降線"a"にゆ合した. 肝蛭のメタセルカリアを経口投与したウサギの血清を用い, 同様な試験をおこなった. 成虫と幼虫はともにゆ合する2本の沈降線を形成した. このうちの1本は前述の沈降線"b"にゆ合したが, 他の1本は沈降線"a"とも"b"ともことなる沈降線であった. メタセルカリアにより認められた沈降線は2本で, このうちの1本はメタセルカリアのみに観察された沈降線であった. また, 他の1本は, 吸収試験の結果から, 成虫由来の抗原と部分的に共通すると考えられるメタセルカリアの抗原により形成された沈降線"e"であった. つぎに, 感染血清と抽出液との間に認められた4本の沈降線を形成する抗原"b", "c", "d"および"e"の虫体内における分布を間接螢光抗体法で検討した. その結果, 抗原"b"はおもに幼若虫の腸管に, また, 抗原"d"はメタセルカリアのシスト内の幼虫に分布していることが明らかとなった. また, この試験から, 抗原"c"は幼虫のクチクラやクチクラ下の細胞層に, また抗原"e"はメタセルカリアの外被壁におもに分布していることが示唆された.