抄録
ビタミンA欠乏飼料で7力月間飼育したハムスター全例(7例)に胃潰瘍の発生を認めたので, その発生機序について病理学的に検討した. これらのハムスターの胃は, 食物停滞のため拡張し, 内容物中に被毛が種々の程度に混在していた. 潰瘍性病変は, 全て腺胃部に限局し, 特に前腺胃移行部に好発した. 組織学的には, 粘膜の限局性壊死・びらんにとどまるものから大型の穿孔性潰瘍に至るものまで種々の過程の潰瘍性病変が認められた. これらの潰瘍は, ビタミンA欠乏による胃の機能障害に起因する食物停滞および粘膜上皮の壊死性変化の共力作用の結果生じたものと推察した. なお, 胃内容物中の毛の存在も潰瘍発生における物理的要因として無視できなかったため, ハムスターに1%の割合で被毛を混餌投与する追加実験を行ったが, 被毛摂取による胃の食物停滞および腺胃部粘膜の組織学的変化は観察されなかった.