日本獸醫學雜誌(The Japanese Journal of Veterinary Science)
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S. typhimurium の胃内投与によるカニクイザルの実験的腸炎
勝部 泰次田中 饒
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1982 年 44 巻 2 号 p. 325-333

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抄録
人に胃腸炎を発症させるに要する菌量を知るための基礎研究として, 絶食などの前処置を受けていない, 外見上健康なカニクイザルに, S. typhimurium の野生株(線毛株の胃内投与により敗血症死したマウスの腸管乳剤)および非線毛株(非線毛株の培養菌)を胃内投与した. 野生株を投与した例では, 107個群3頭中3頭, 105個群6頭中5頭, 103個群6頭中6頭に腸管感染の成立をみた. 感染例のうち, 107個群では全例, 105個群では4頭, 103個群では2頭が腸炎を発症した. これに対し, 非線毛菌投与例では, わずかに107個群3頭中1頭, 105個群3頭中1頭に腸管感染の成立と腸炎の発症をみたのみであった. 主要な症状は水様性下痢であったが, 個体によっては粘血便, あるいは軟便を排泄するものもみられた. 水様便は2~3週間, 粘血便は2または5日, 軟便は1または2日, それぞれ排泄された. 病初の大便中の菌量は103~108/gであり, 多くの例において, 経過中に排泄菌量が増加した. 粘血便を排泄した2頭を剖検したところ, 病変は回腸, 結腸などにみられた. 野生株と非線毛株の間にみられた感染性の差異は, 線毛が関与している腸管定着能の有無によるものと考えられた. 人のサルモネラ胃腸炎は, 分離株を用いた人体実験で証明されたものよりもはるかに少い菌量でおきているものと推定される.
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© 社団法人 日本獣医学会
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