抄録
1985年11月から1986年4月にかけて南九州を中心に水無脳症-小脳形成不全症候群を伴う異常子牛の出産が多発し,その総数は2,463頭に達した. 発生は主として肉用種に認められ,乳用種では稀であった. 本病は鹿児島県の曽於郡で初発し,次第に周辺部に広がり,九州全域に波及した. 本病の原因と想定されるChuzanウイルスに対する抗体は九州で高率に,中国,四国の一部で低率に認められた. 抗体陽性牛の分布と本病発生地とは一致し,またChuzanウイルスの流行年と異常子牛の発生年とは一致した. これらの結果からChuzanウイルスが異常子牛の発生と密接な関係を持つと推定され,血清疫学調査の成績からChuzanウイルスは過去に九州に存在せず,今回の流行前に沖縄諸島を経由して本土に侵入した可能性を示した.