野生のエゾシカ(Cervus nippon yesoensis)78頭, および牧場で飼育されているエゾシカ21頭について血液学的検索を行った. このうち興奮状態下で82頭, および休息状態下で17頭をケタミン(10mg/kg) -キシラジン(1mg/kg)混合液により鎮静させ, 採血を行った. 興奮状態下で鎮静させたシカは, 休息状態下でのそれらと比べて, 赤血球数, ヘモグロビン量, ヘマトクリット値, および平均赤血球容積が有意に高値を示し, 一方, 平均赤血球血色素濃度は有意に低値を示した. 白血球数は両状態間での有意差は認められなかったが, 興奮状態下で鎮静させた野性のメスでは好中球増多により著明に上昇していた. 興奮状態下で鎮静させたオスは同条件下のメスよりも, 赤血球およびヘマトクリット値は有意に高値を示したが, 平均赤血球血色素量は有意に低値を示した. 野性のメスでは同オスよりも有意に白血球数が多かったが, 牧場で飼育されているシカには, 同様の差異を認めなかった. 10か月齢の子ジカの血液学的数値には性差が認められなかった.